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2018/07/17(火)
ケンちゃん空を飛ぶ
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裏山を通ってお宮へ向かうわが家の南にある階段はとても長かった。階段は真っすぐに山の上まで続く。いつもは上を見上げると広〜い空がそこにはあった。その階段を登りきるとうっそうとした森になる。この森の中を人がやっと通れるほどの木の根だらけの道を数百m左に行くとお宮の広場にに出る。このお宮の広場の周囲は桜の木やモミジの木などがいっぱいある。ぼくは毎年夏休みの標本づくりはここでやるのだ。ぼくたちがシャーシャーと呼んでいた「クマゼミ」「アブラゼミ」「チーチーセミ」などいくらでも採れる。ある時、友人が2日間でセミを何匹採れるかとの競争を挑んできた。ぼくはいつもどおりに竹の竿の先にハエトリ紙のネバネバのくっつきをつけて採っていたところ、ご注進があった。あいつは「兄弟でやっているぜ。ケンちゃんもなんとかしなきゃ。手伝おうか?」と。「いや、ぼくは一人でやる」とせっかくの申し出を断った。そこで考えた。「どうする?けんじ}と蚊帳の中で。寝る前にふと「蝉も寝ているはずだ」と思った。「よし!明日は早いぞ」と決意して寝た。翌朝はまだ暗いうちに起きて、大籠を持って出かけた。なんとまあ採れるは採れるは。素手でいくらでも採れる。そして、その日のお昼に友人数名が集まって勝負判定がおこなわれたが、ぼくは卑怯な気がして理由を話し、引き分けにしてもらった。その試合の日の翌朝であった。ぼくは真っすぐな長い長い階段の上にいた。そして、ぼくはそこから飛んだのだ。ムササビのように。すーーーっと。なんと気持ちの良いことであったか。ばくは空を飛んだのだ。すると、姉の声がした。「けんじ、いつまで寝ようるんで!」と。いつものとおり箒を手にして。
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