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2018/10/08(月)
1年生からやりなおせ!
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2学期が始まってしばらく経った頃、わたしは職員室へ入った。職員室というのは行きたくない場所の一つではあったが、決意して出かけた。先生たちは生徒指導に追われていたのでわたしなどが職員室へ呼び出されることは少なかった。岡輝中学校の評判は卒業した年度の学年ほどではなかったが、有名だったようだ。他校との喧嘩の噂も多かったし、近隣とのトラブルも多かったようだ。ある日の朝礼では校長が涙しながら{XXさんは転校することになりました」と報告したことがある。噂ではその子は子供が出来たとのことだったが、これは別の意味での家庭崩壊の報告であった。岡輝中の評判の裏には家庭崩壊が存在することは明らかであった。職員室に入るとちょうど担任の安井先生がいた。近寄ると「おー、田畑か。何か用か」と聞く。わたしは「先生。女にもてる学校があるというんで操山高校へ行きます」と言うと、先生はぽか〜〜んと口を開けたまま「・・・・・」。わたしが何を言っているのか理解できなかったようだ。そこでわたしは再度「先生。操山高校を受験します」と伝えた。しばらくの無言の時を経て先生は「止めた方がええ」と答えた。「でもな、先生、どうしたらええか、教えて」とわたしが尋ねると「一からやりなおすことじゃ。一年生の教科書から勉強しなおせ。今からじゃあ、遅すぎると思うが・・・まあ、そういうことじゃ」と言うので、「そうか。わかった。先生、ありがとう。わかった。一年の教科書からじゃな。わかった」とお礼を言って職員室を後にした。後日談ではあるが、その日からしばらくして母が学校に呼ばれたとのことであった。高校生になってから母がわたしに話した内容は次のようであった。「先生から学校へ来て欲しいと呼び出された時はびっくりしたんよ。あんたがまたどこかで悪さをしたのかと思ってな。ところが、先生がこう言ったのよ。田畑くんが操山高校を受けると言って来たが、お母さん、止めさせて下さい。冗談だとは思いますが、もし本当に受けるとしたら学校の恥ですから是非止めさせてください。お願いします。家庭でのご指導をよろしくお願いします、と。じゃから、わたしゃー、こう言ったんよ。あの子は言い出したら聞かん子ですけえ、ほっといてつかあせえ」と。そうしたら「先生は親が親なら子も子じゃなーというような顔をして黙ってしもうたんよ。アハハ」と笑った。その時の母の笑顔の目尻の皺が今でも懐かしく思い出される。
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