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2011/10/23(日)
昨今着物の採寸事情
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先日、着物のセールの際にお姫さんの気に入る反物があった。 大島だが、よくある絣柄ではなく、縦横に格子に糸を配した柄。 絣を作りには、大島の場合なら、一度絣用織り込みをした上で染める。それを解いて、機(はた)にかけていく。 だいたい、絣がなく、先染めの糸だけで無地、縦縞、格子を織り出す場合だと、価格はざくっと半額になる。 結城や白鷹お召しも今は精緻な絣柄を特長とするが、江戸時代、結城といえば、店の手代が着た様な手軽な着物である。当時は縦縞などがメインだったらしい。
残念ながら、そういう絣柄のないものを捜すのは至難の技である。販売数量の少ない、昨今は、少しでも高いものを扱いたいと思うからなのかどうか知らないが。
とはいえ、こんな風に「お値打ち品をお手頃価格で」という催しの際にはみかけることがある。
今回の反物もそんなわけでお姫さんの目についた次第。
「成人式の着物をどうしようか?」と思って、実家に相談したら「どうせ、振袖なんか、成人式にしか着ないのだから、もったいない。よく着る着物を買え、そうだ、大島がいい」 と、愛用着物は大島な母は言った。そんな矢先。
しかし、その先は難航した。 地味な大島の裏八掛は明るい色が良い。 と思うのだが、何故に明るい赤がない? これも、昨今の流行なのか?
他の業者の見本などをとりよせてもらって、やっと選んだ。
そして、今日、採寸という段取りとなった。
採寸に都合のよいように、娘に着物を着せた。 10歳のときに作った着物で、今は肩上げを外して着ているもの。 そんなにサイズに問題はない。
何故、着物を着るかというと、以前、私が別の店で洋服で採寸した寸法は、とんでもなく合わないサイズで仕立てられてきたからだ。裄も丈も10cmは長かった。着物は腰上げで調整できるが、長襦袢はそれでは困る。 次の機会には着物で行って採寸してもらった。着物の襟を基本に測った裄や着丈はぴったりのサイズに仕上がった。 痩せているせいと腰紐の位置が低いせいで、身長から割り出すサイズに比べて身丈も着丈も短いのだ。
というわけで、店に到着。 私の担当は「この子は、採寸のプロですから」と店長太鼓判。 「まずは基本サイズをはかりますね」 身長、胸周り、胴回りと手際よく測っていく。 そして、問題の着物の寸法である。 まずは裄。 手を斜めにした状態で測る。昔は手を真横にして竹尺で測った寸法だったが、今はメジャーで腕を斜めでが一般的だ。 でも、なんとなく45度より下目な気がする。 「1尺9寸5分」 店員が寸法を読み上げた。
ちょーっと、待てぇ。何なんだ、その非常識な寸法は?
身長168cmを誇る私の寸法だって訪問着1尺8寸5分、普段着1尺7寸5分である。 148cmで洋服は女モノのSサイズの娘が、そんな尺幅の反物で仕立てられないような寸法の筈がない。
「今着てる着物と同じ位でいいのよ」 というと 「この着物では、こんなに腕が出てしまいますよ」 と、娘の腕を真下に下げて示した。10mばかり腕が出ている。
着物では、腕を真下に下げれば、腕が出るのは当然である。 だから、人様の前では腕をだらんと下げないようにするのが立ち居というものである。
「これで腕が出るのは当然でしょ」 というと店員は 「??」 という顔をした。なにやら、話がかみあわない。 が、向こうは、うちの寸法はそういうものだという風に考えることに切替えたようだ。 手を真横にした状態で裄を測りなおした。1尺6寸5分。 身丈は、襟から測って着丈を出し、そこにお端折の2倍を足した。ぴったり4尺。 並寸よりも若干小さめといったところだ。 身長からしても、当時の女性の平均よりチョッと小さめなのだから、辻褄も合う。 そして、褄下。腰紐の位置が低い場合、褄下は短くなる。腰紐位置で決まるのである。ここまで襟がきていないと着崩れやすい。といって、お端折りからはみでると間抜け。結構重要な寸法である。 そして最後に、仕立て師が判断して寸法を替えて良い場所とこちらの言った寸法を優先する場所の確認。 裄や身丈、褄下は依頼寸法優先とした。 「腰紐位置は低い」と書き添えるように依頼した。
普通なら、身長、胸周り、腰周り、首から裾までの長さ、首から手首までの長さで仕立て師に依頼するらしい。 昨今は仕立て師も大変なことだ。 仕立て師の某相談サイトに、寸法に関する相談が出ているが、さもありなん。 尺幅の大島の反物に「裄1尺9寸5分で、身長148cmの娘さんです」とあれば、仕立て師は頭を抱えるに違いない。
それとも、昨今は、長身の女性も多いので、長大な着物を仕立てることには慣れっこになっているのだろうか。
が、もし、採寸について知らない女性が、初めて着物を誂えるのだとしたら、不幸である。1尺9寸5分では、仕立てられる着物に制限ができてしまうからだ。 通常の反物は1尺幅。ここから仕立て可能なのは最大1尺9寸。余裕を持つなら1尺8寸5分が望ましい。 伝統的な染めや織りであればあるほど、両端の「ミミ」と呼ばれる縫い代にしかできない部分は広く、手織りなどでは、極端な場合、内側は9尺弱しかないということもあるのだ。 これ以上の裄を必要とする場合は、1尺5分とか1尺2寸という若干広幅の反物を用いる。さもなくば、お相撲さんのように足し布をして幅をとる(お相撲さんの場合は、足し布がないとみっともないとかで、小柄でも足し布をする)
某サイトで「私は普通の反物では仕立てられないんです」と言う女性がいたと書かれていたが、うちの娘まで、そんな目に遭うところだった。
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