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2007/02/02(金)
袴の歴史(2)
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女子の袴姿が急速に消えるのは関東大震災辺りからだそうです。 学校の制服はセーラー服に替わり、キャリア・ウーマンの勤務服も洋服が一般的になります。 といっても、日本全国一斉に切り替わったのではなく、東京が一番早く、地方都市が続き、農村の集落の場合は随分遅くまで袴の習慣は残っていました。
昭和一桁生まれの母は新潟県の新潟市に育ち、小学校でも中学校でも袴をはいていた子はいなかったとのこと。 同じ時期の義母は山形県の農村に育ち、小学校で裕福な子は平常授業には袴姿、礼装には礼装用羽織袴を用いるという状態だったと話しています。 明治生まれで大正時代に東京に出てきて「ばすがーる」をやっていた祖母になると、明治時代の茨城の農村では高等科も出さないような子に学校に通うための袴は誂えてやらなかったようで、祖母が袴をはくのは「ばすがーる」の時期です。 幸田文著「きもの」の主人公は、私の祖母と同じ世代の東京育ちです。 この本の中では、通学服として袴が出ており、学生の不祝儀服としても色無地に袴姿が出てきます。
私の周りでは、明治生まれ、大正生まれの方は女性の袴姿に肯定的であり、昭和生まれの方は否定的です。 これは、自身もしくは身近に袴をはいて勤務していた人を見知っているかどうかに関係しているんじゃないかと思ったりします。 私の母の世代でもう孫どころかひ孫もいようという世代ですが、この世代では、既に「袴をはくのは、女教師、しかも卒業式の礼装としてのみ」という経験しか持っていないこともあります。私の父や母は現にそうです。
私が大学の卒業式に袴を履きたいといったら「あれは、師範学校卒の女性の着用するものである。」ということで、就職先が教職でもなく、教職資格すら取らなかった私は、その論に断念しました。 今は、卒業大学、学部、就職先を問わず、卒業式に袴をはかれる方がおられるわけで、父母の論は、狭い固定観念によるものだったわけです。
現在の女教師の卒業式における袴着用率は かほどなのでしょう。 40年程前の私の幼稚園の卒業式では、教師は全員色無地着物+袴でした。 10年程目の娘の幼稚園の卒業式でも、同じように園長以下全員袴でした。 でも、私のときも娘のときも、袴は一人もいなかったという園も少なくありませんでした。 「女教師の卒業式の礼装」としてすら、意外と一般的ではありません。
その一方では「女学生の卒業の礼装」としては、やたら一般的になっているように思えます。 オーソドックスな「色無地に紺袴」に加えて「振袖に袴」「矢絣に袴」「小紋に袴」「銘仙柄に袴」と様々な着物が合わせられています。 袴も「紺や臙脂のウールサージ」のみならず、様々な色があり、ぼかしがあり、刺繍入りがありと色々です。 足元は、白足袋に草履の他に、ブーツはかなり一般的です。 大学で教鞭をとる知人の弁では、文学部のみならず、社会学系でも理工学系でも袴姿はかなりの率を占めているとのことです。
さて、「卒業式の女教師」でも「卒業式の女生徒」でもないTPOでの袴姿はいかなものでしょうか? 元々の定義では「下の着物の格に同じ」となっていました。 振袖なら振袖と同じ、色無地なら色無地と同じ、小紋なら、ウールなら、以下同文。 羽織は、着物に帯の場合は、略儀になりますが、袴の場合はかなり一般的に着用されていたようです。 錦絵の袴姿で戸外を歩く姿には長羽織がつきものです。
私見ですが、元々、女袴は公家の装束から考案されています。 元の格好は袿袴姿の簡略系ですから、袿にあたる何かが欲しい気分なんです。 男性のお公家さんは、普段着としては、指貫を裾で切った差袴(さしこ)に道服を着ており、これが更に羽織に羽織に替わっていきます。 女性の場合も、簡易な羽織る衣類として羽織が登場したのではないかと。 この点が、向島芸者は男性として雇用されたために、「男子である」の意味で羽織を着たというルーツとは異なるルーツを持っているのではないかと思うのです。
袿袴やそれをくくりあげた道中着姿を着慣れると、着物に袴だけで戸外に出るというのは、なにやら「下着姿で歩いているような気分」になるのです。羽織を身に着けて、やっとホ!
この場合、羽織が袿にあたるわけですから、全体の格は羽織の生地にかかります。 訪問着的な絵羽柄か、小紋か、紋意匠縮緬かは大事なことになります。
元の定義からすると、この程度なので、これを考慮してTPOに合わせれば、カジュアル用途などは特に誰はばかることないと思うのですが、着物ですら場合によっては着るのを憚る必要のある昨今では、袴姿は更に憚る必要が生じてしまうのです。 訪問先、同行者の同意が得られているかは大事なことです。
逆にそれさえクリアしていれば、通りすがりに見も知らぬ人に後ろ指さされたって、気にする必要はありません。 そも、その人がどのような背景でその衣装を身に着けているのか、わかりもしないのに、口や手を出すのは僭越である思う次第です。
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