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2006/10/31(火)
上方好み、江戸好み
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掲示板などで出てきた話題に「ウチではこうするのが習慣だけど」というと、「あら、私はこうですよ。周りの方々もそうで、そちらのような習慣は聞いたこともありません」と見事に真逆な論が返ってきたりすることって結構あります。 着物は、本来、お家毎に習慣があるので、「日本全国貴賎を問わずに画一」の決まり事にはなっていません。これは、はるか遠いご先祖様達が何者であったかの積層情報ですから。 例えば、殿の父方の実家は、戦国時代には武士だったのが、落ち武者となり、江戸期にはずっと農民だったんですが、先祖が武士だったからなのか、純粋な農家タイプに比べて、武家っぽい習慣もあります。 地域的なタイプとしては、殿の母方の実家の酒田。平城京時代より王城とは交易のある土地で、江戸期には北前船で京都の物産がかなり豊富に持ち込まれていたようです。周辺の東北地域とは、食文化も言語も異なり京都に近いです。着物文化圏的にも京都系かな。
我が家の習慣は、着付け教室や着付け本とは相違いすることが多いので、つっこんだ質問だと「うーん、相手のとこで、こういう風にしても大丈夫かな」と気にしてしまうことがあります。
なんですが、最近、色々と情報が溜まってきたので、「我が家固有」ではなく、どうやらお仲間が存在するらしいと判って来ました。
習慣は、ざっくり言うと、「関西系」「関東系」に分かれます。 「関東系」というのは、江戸期の将軍様のお膝元に育まれた武家文化の習慣を引きます。傾向的には質実剛健、「スッキリ」とか「きっぱり」といった形容詞が似合い、色柄的には、「渋い系」「寒色系」というイメージがあります。 対する「関西系」は、京都にいたお公家さん系の習慣を引きます。 こちらは、「はんなり」「みやび」ですね。色柄は「鮮やか系」「暖色系か百花繚乱か」といったイメージ。
例えば、黒留袖。黒地の裾柄の紋付着物ならOKなので、裾模様には様様な地方の染めや縫取り技法があります。 極端な例では、関西系なら京友禅、対する関東系は江戸友禅。 御所解きや百花を色鮮やかに華やかに描かれる京友禅、青の濃淡を主体に茶屋辻などのシックな柄の江戸友禅。対照的です。
黒紋付も東西の差があります。 関西は縮緬地、関東は羽二重です。 もっとも、シミになりやすく、着崩れしやすい羽二重は、自力で着物が着られない時代には敬遠され、今ではどこでも縮緬が一般的です。
小間物も好み差があります。 帯揚げは、関西は絞り、関東は紋綸子なんだとか。 礼装用の帯締めの組み紐形態は、関西は丸組み、関東は平組み。 平組みは、武具の留め紐に使われていた平組みの紐を使うようになったといういかにも「武家系」のもの。 当然ながら、丸組みは公家の装束に使う紐類からきています。 丸組みの一種、「冠(ゆるぎ)組み」は、まさに、頭の冠を支えるために縛った紐の組み方から来ています。 「丸くけ」という布の中に綿を詰めた紐は、装束のお端折りにも使われていましたから、案外と出自はそれかも。 「丸組みは丸くけの代替品」という言い方もあるようです。
意外な差異は、季節の衣替えの考え方。 武家式では、襦袢から肌着まで規定しますので、時期になれば暑かろうが寒かろうが定めたものを着用します。 お公家さんは、この点が緩く、襦袢や肌着の規定がありませんので、「暑いから襦袢を薄いのにしよう」といった対処が取れます。 また、衣替えの時期に武家とは差異があり、「夏物」の期間がやたら長いです。今の暦で言うと、ゴールデン・ウィークには夏物になり、これが11月の23日迄続きます。盛夏にはもっと薄物になります。そして「若者はこの通りに、年配は寒いなら着重ねてよし」です。 若者だって、見えないとこである小袖で防寒することは可能ですから、問題はないわけです。
というところで、私は、どっち系かというと、「ハイブリッド」です。 母方はの母方が関西系なので、母方の方から来る習慣や物品は上方系、父方はどちらも関東系なので、父方から来るものは江戸前系です。
成人式の着物が露骨過ぎて笑えます。 父方からは、江戸小紋に平組の帯締め 母方からは、変り縮緬にぼかし染め、橘の刺繍を散らした訪問着。 帯締めは礼装用の太めの丸組み。
帯揚げは、共用で紋綸子に絞りがところどころに散っている京都製。
母が腰入れの際に持参した着物や帯の中には、「京袋帯」という、 「長さは名古屋帯、つくりは袋帯」というのがあります。 関西出身の祖母が用立てたのでしょう。袋帯は長くなる傾向なのでか、 関東圏では、新品の京袋帯を見ることはありません。
最近、自力で調達した黒紋付に至っては、完全江戸好みですね。 関東系の黒羽二重に帯締めは「江戸組み」という平組みとはちょっと違う、断面が長方形な組紐と、紋綸子の帯揚げ。 買った店が、銀座だったので、江戸前系しかなかったからとも言えます。 個人的には平組みは納まりよく結ぶのが苦手。 帯揚げは鹿の子の総絞りは嵩張るので嫌い。余り見せない着付けにするので、嵩張らずに帯の中に消えてくれる紋綸子が好きなのです。
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