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2004/08/13(金)
新連載 〜 8月の思ひで9
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私達が到着したのは水俣湾に面した公園だった。ひろいひろいきれいな公園。 話を聴くとそこはその昔「水俣病」を引き起こした海だったという。工場から排出される有毒な物質の為に数多くの人が命を失い、また今も病に犯され続けている「水俣病」。松子も小学校の社会の時間で勉強して頭にひどく残っていた。
その夜は水俣病の患者の方や支援者の方や、地域で運動をしている人が集まり、水俣病で苦しんだ多くの魂を慰める集いであった。A氏はそこで鎮魂の演奏を行う事になっていたのだ。A氏の演奏に始まり何人かの患者の方達が集まった我々に向かっていろんなお話をして下さった。
この病気で苦しんだのは人間だけではない事、魚や動物たち、そしてこの海自体が深く傷付き悲しみに満ちていたと話されていた。今はこんなに綺麗な公園となり、皆忘れようとしている、上辺を綺麗に鋪装してその中に悲しみを閉じ込めて見ないようにしている、と。そして我々はその魂を慰めるためにここに集っているが、ここは悲しみのお墓なので皆様も何か悲しみを背負っていらっしゃるならここに置いていってください、と。
松子は震えた。知らない内に病気に犯され、さらに堪え難い差別が患者を襲ったと言う。平和な村が、生活が、体が、家族が統べて崩れていき、苦しみのなかで今なお強く生き続けるこの方達が、遠くから何の事情も知らずにふらりと立ち寄った我々の悲しみを取り除こうとしている。 その公園のその土の下に数えきれない傷付いた魂が眠っていてそこにくる人たちを癒す。
ショックだった。
その夜は集会の主催者が用意してくれた宿に宿泊させて頂いた。 多くの支援者や患者さんやその家族が集まって食事が終わってもいろいろ話を聞かせて頂いた。本当に心が大きく揺さぶられた日となった。人に出会うということはまさに宝だと実感した。
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