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2004/06/11(金)
めぐり逢う時間たち
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久しぶりに机の掃除をした。いつもは目につくものを放り込んでいるだけの引き出しの中身をゴミとそうでないものに分けていくという、猥雑で面倒な作業だ。しかし、不思議と作業が進むにつれ引き出しの底から掻き出される自分の過去と対峙する瞬間がとても有意義に思えるようになってくる。有意義というか、一種のスリルを喚起するもの。もう捨てたはずの手紙や、いつ撮ったかも上手く思い出せないような写真、下手を承知で描いたデッサンなどが小さな物音とともに現れては、胸の底をくすぐっていく。現在の自分にあまりにも忠実でない過去の自分が、僕の横面を不意に叩く。
一枚のルーズリーフを手にする。汚い字で歌詞とコード進行が書留められているが、鉛筆の字が擦れ初めていて、上手く読めない。 だけど、僕はそれをよく覚えていた。頬を涙がつたう。笑い泣きだった。
僕は高校時代バンドの真似事をやっていて、勢いあまって自分たちで曲を作ったりもしていた。オリジナル曲を作るとはいっても当時はみんなに聴いてもらう機会なんてのは滅多になかった。だから僕は授業の合間にアコギを持ち出してはバンドの面々に「この曲、どうよ?」って弾いて聴かせては当人たちだけで悦に浸っていた。
ある日、友人から作曲の依頼を受けた。その友人は僕が作詞・作曲した『クジラの歌』という曲をいたく気に入っていた。『クジラの歌』は二分もないような短い歌だったが、その二分は全て下ネタでできあがっており、僕が『クジラの歌』を作るのには二分もかからなかったと思う。当時の僕はそういう下賤なアイデアをひらめくことに関しては天才的な素質を備えていたから、今回もそれに期待したうえでの作曲依頼であった。
テーマは「ワッフル」 「学園祭でワッフルを売るから、イメージソングが欲しいんだ」 友人はそう言ったが、彼自身が歌うつもりで僕に頼んでいるわけではないことは目に見えてわかっていた。店の責任者か誰かに歌わせて、自分はそれを遠目に見ながら馬鹿にするつもりなんだ。昔からそういう奴だったんだ、こいつは。
僕は、その悪だくみに乗った。 僕はすぐにそいつの目の前でギターを抱えてみせ、適当なメロディーを探しながらコードを鳴らした。最初のコードはなにから始めようかとか、もう思い切ってテンポを速めにしてみるかとか、数分のあいだ試行錯誤を繰り返すうちに、気付けば曲は書きあがっていた。
タイトルは『ラブラブわっふるたいむ。』
酷い。
内容は愛しあう二人がワッフルを食べる時間のウキウキな様子を描いたもの、と思われる。 「こんがり焼きたて アツアツ視線のビーム」 なんて一行を考えていたときの僕は、ほんとにシラフだったのかどうかも疑わしい。歌詞は半分を過ぎたあたりであえなく下ネタに堕し、高校生という若さが僕の思考を支配していたことが簡単にわかる。
僕はその紙片を胸に当て、そういえばこの歌けっきょく誰も歌わなかったな、なんてことを思い出した。僕もまだ捨てたもんじゃない、そう思って作業にもどることにした。
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