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2005/02/21(月)
なんちゅう町や、十三って!
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リハが終わってとよだと飯を食べに行った。今日はえらい寒い日や。治りかけた風邪がまたぶりかえしそうや。 その寒さの中、二人は十三の町をうろつきまわっていた。
朝から何も食べていなかった俺は、とにかく腹が減っていた。リハ前にビールを2本飲んだだけだ。
「もう腹減った。はよなんか食おうぜ」 「何が食いたいんや?」 「なんでもええ、カレーでええ」 「せっかく十三きたんやから、まあもうちょっと歩こうや」 「・・・・・」
・・・だんだんこいつの魂胆が読めてきた。さっきからあやしげな通りばかり探して歩いている。 ほら、みろ! そこは十三の立ち飲み屋街。しょんべん横丁や。 最初からこいつはここを狙っていたんや。
「カレー屋なんかないで。この立ち飲み屋にしようで。ぎょうさん立ち飲み屋があるし、一番安いところさがそうで」 ・・ほらね。俺はカレーが食いたいんじゃ!何が悲しくて十三で立ち飲み屋にいかんとあかんのや。しかもとよだと。
結局、俺は立ち飲み屋で不満そうに串かつをかじっていた。とよだはテーブルの上に、安物の一品をずらりとならべて満足そうにしている。またこいつの罠にはまってしまった。
ライブが始まり出番が近づいてきた。とよだと今日の作戦会議に店の外に出る。
「さっき気になっとった店があるんや、ちょっとだけ行けへんか?そこで作戦を練ろうで」 「ええけど、また立ち飲み屋か?」 「当たり〜。まあ時間ないし、はよ行こうや」
なんだ?さっきのしょんべん横丁やないか。 ええ?「大阪で一番高い立ち飲み屋。一杯1000円」 なんじゃこりゃ?
「面白そうやないか、たまにはこんなとこ行ってみんとな」 「怪しいよな?立ち飲み屋やろ?」 「まあまあ、おっさんはこんなとこで飲まんなあかんのんや」 「わけがわからんわ」
店に入ると確かに立ち飲み屋。でもカウンターの向こうにいるのはめちゃ若い姉ちゃん4人。
「いらっしゃ〜い、お二人様ですか〜?」 ここはキャバクラか?いや、ここはキャバ立ち飲み屋か! 何じゃお前らその格好は!お前らどう見ても場違いやろ? 立ち飲み屋はおっさんのほんのひとときの憩いと安らぎの場やぞ!なんやねんなお前ら。
「うちらキャバクラで雇ってもらわれへんからここにおんねん、きゃははは」 「もっとべっぴんやったキャバクラ行ってるわ、きゃははは」 なんやこいつら、頭悪そうな女どもめ。神聖なおっさんの立ち飲み屋を冒涜しやがって。なあ、とよだ、なんか言うたれよ。
とよだは若い女の子を見てポーっと幸せそうな顔をしている。だめだ、こりゃ。
「一杯1000円になります、4品付きだしがつきますから、きゃは」 何がおかしいんじゃ?こいつら人の顔を見て笑いやがって。その上目遣いで見つめるのはやめろって!
でも4品つくんなら安いんやないか?まあ普通とかわらんやんか。出された付きだしを見てびっくりした。 きゅうりのQちゃんにしば漬け、切り干し大根が一つまみにかまぼこ3切れ。それがひとつのさらに盛られている。これで4品かよ!
「うちお酒もらってもいい?」あかん!なに言うてんのや、もう帰るで、とよだ。 「う、うん、ええよええよ」な、なにー!とよだの阿呆! 「じゃあ、うちも、わたしも。いっただっきま〜す」 な、なんでそっちの女もなんや?おまえら関係ないやろ?ええかげんにせえよ。しかもそれ緑茶やんか。みえみえやんか。
「飲め、飲め。ええおっさんが酒の一杯や二杯でがたがた言うたらあかん」 「かっこいい〜、おにいさん。男前」 「そ、そうか?そうかな〜」 何でれでれになっとんのや。あほらしいてやってられんわ。
「もう一杯のんじゃってもいいかしら」 「飲め、飲め。なあ、社長。今日は社長のおごりや」 「ええ?社長さんなん?え、何の社長さんかっこええわ〜」 ??いつから俺が社長になったんや?だいたいどこから見ても社長には見えんやろが。ほんでなんで俺がお前らにおごらんとあかんのや。べたな事言いやがって、このたこ女!もう帰るど。
「ほんならおあいそして、また来るわね〜」 お前はあほか? 「は〜い、まってます。ハイこれ」 請求書には9000円と書かれてあった。馬鹿馬鹿しくて笑いが出てきた。立ち飲み屋で俺が飲んだ焼酎2杯。量も普通の半分しか入っていない。それと申し訳程度の漬物。時間にして約20分。ぼったくりバーか、ここは!
「ええかげんにせえよ、お前は!ちゃんと半分金払えよ」 「面白かったな。たがみちゃん、本番に遅れるど、走ろうで」 急にライブハウスに向かって走り出すとよだ。
「こら、どこに行くんな。ちょっと待てー!こらっ逃げるなー!とよだの馬鹿やろう!」俺の叫び声は十三の喧騒の中に消されてしまっていた。
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