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2004/03/16(火) 東名サービスエリア、バイク全焼事件
3月といえば、あの風の強い日を思い出す。あれはたしか東名高速のSAでの出来事だった。東京でライブを終えいつものように朝方まで飲んでいた俺たちは、酒が体から抜けないまま東名高速を大阪に向かって走っていた。
「う〜もうだめだ、気分悪い、止めてくれ」
「俺もや、次のサービスエリアでちょっと休憩しよか」

春風が強く吹く中、車はSAのトイレの前に止まった。そこには大型バイクがずらりと並んでいた。しかしようこれだけ集まったな、まだ新車ばっかりや。バイク好きの二人は気分が悪いのもぶっ飛び、バイクを一台ずつ吟味していた。
「今のバイクはすごいな、このショックも純正でついとんのか」
「なんぼするんやろなこのバイク、メチャ高そうやな」
「しかしバイクらしゅうないバイクばっかりやな、未来からきたんかこのバイクは」
「こんなもん男が乗るバイクとちがうど」
「あかんがな、男がこんな仮面ライダーみたいなバイク乗ってたら」
「そや、なんかみんな勘違いしとるわな、やっぱり男は空冷4発やで」
「いや、やっぱり2ストもええな、SSかKHで煙吐いて走るんや」
「仮面ライダーとかわらんやないか、男は空冷4発や!ヨシムラの手曲げにセブンキャストにアールズのオイルクーラーに・・・」だから、どうで、わいわい、がやがや・・・

二人で真剣にムキになってバイクの話で盛り上がっていた。すると休憩を終えた全身黒ずくめで決めた兄ちゃんが新車の1300にまたがってエンジンをかけた。ゴォ〜ン、ゴォ〜ンと集合のいい音をさせてみんなの注目を浴びている。バイクにまたがり何度もアクセルをあおっている。かっこええやんけ、マッドマックスみたいやな。
「おい、見てみ、あいつメチャ吹かしてるけど、あのままつないでアクセルをガバっと開けたらスピンしてひっくりかえるど」
「おう、あれは素人やな。あいつリッターバイクのパワーをなめとるな」
「じわっと出ていかんとこけるで、わかっとんのかいな」
「わかっとるやろ、バイク乗りがこけたら話しにならんがな」
「それもそうやな、まさかな、まさか・・・」

ブオーン、ガー、ギュルギュル、グワッシャ〜ン、ガリガリガリ・・・
「ありゃ、こけたがな!こけたがな!」
「だから言わんこっちゃない、あ〜あキャブからガソリン漏れとるがな」
「はよう、起さんと火花飛んだらやばいで」

黒ずくめの兄ちゃんは動揺してオタオタしている。また今日は風がムチャ強い。バイクはうなりをあげたまま横たわって何やら煙を吐きだした。
「やばいで、あれは火が出るど、おまけにこの風やで、出たらアウトや」
「何してんのやあいつ、パニクっとるがな。しゃあないな、いったろか」
「おう、はよせんとバイクが燃えてまうど」

近くまで走っていったが強風にあおられた新車はついに火を噴き出した。兄ちゃんはまだおたおたしている。こいつ何してんのやまったく。ありゃりゃ、もうあかんわ。みるみるうちにタイヤに火が移った。黒い煙がもうもうと立ちだした。やっと気がついたSAの店人たちが手に手に消火器を持って走ってきた。しかし風が強すぎて消化剤も吹き飛んでしまう。
「こりゃだめや、下手したら爆発するど、もう側から離れたほうがええど」
「あ〜もったいない、新車が・・・」
「しゃあないな、こんな事もあるんやな。全焼やで全焼」
「それにしてもこの兄ちゃん、高い授業料やったな」

あっという間の出来事だった。しかしまだ消防車はやって来ない。黒い煙はSAをおおいつくした。バイクを失った兄ちゃんと俺たちとそして観客のみんなはなすすべもなく立ち尽くしていた。そして知らないうちに観客は一人二人と消えていった。

「おもろいショーやったな」
「ひどいやつやな、でもあの兄ちゃんどうやって帰るんやろ」
「この車に乗せたってもええけど、バイクの連れがなんとかするやろ」
「乗せても何の話してええんかわからんしな、でもわしらもいつ何がおきるかわからんな」
「そうやな、今度消火器積んどくわ、確か家のマンションのエレベータのとこにあったわ」
「いや、そうじゃなくて・・・ほんでそんなん勝手に盗ったらあかんやろ!」
「でもあれはマンションの住人のためにおいてあるんやろ、使わんかったら後で返しといたらええやんか」
なるほど、そういわれればそうか、な?分かったような分からんような・・・あかん、あかん、とよだ菌がうつってきた。気をしっかり持たないと、春は木の芽どきっていうからな。まあ君と居れば火事でも地震でも怖いもんなしや。君の脳みそが一番怖いからな。


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