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2005/11/29(火)
傍観者はかく語りき
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メガネと学帽とロングマフラーで顔を隠した級友が立ち尽くしていた。 あれと思って声をかけようか迷っていたら、後ろから走って来た太郎がリュータを追い越した。 ナカジナカジナカジどうしたのお腹痛いの?アメ食べる?牛乳飲む?俺買って来ようか、それより海行く?元気出してよナカジ云々。 舌足らずが言葉足らずの彼の周りをチョロチョロするので、 嗚呼これではナカジがキレる、とリュータが思った瞬間、はたしてナカジはキレた。 「うるせんだよこの阿呆タロがあぁあ!!」 ドコっという音と共に太郎が壁に叩き付けられ。 そんなナカジよ虫や何かじゃねぇんだから、大体太郎も毎回その調子でよく身体がもつよな、いい加減懲りたらいいのに。 自称海の男は伊達ではないと思いながらそう言おうとした時には学ランが鼻息荒く横を通り、去ってしまっていて。 横目でチラリと、赤くなった鼻を見るに留めておいた。ああやっぱり彼は。
「タロー、お前よく判ったな、ナカジが泣いてるって。」 「え?」 叩き付けられた壁からようやく上げた頭を、ぶるぶるぶる…と振っていた太郎は聞き返す。 「泣いてた?」 「泣いてただろ?」 「そ〜お?」 某アイドルの「ね〜え?」という歌を思い出させるイントネーションで小首を傾げる。 「そお、って…。」 てっきり気付いて声かけたんだと思ったんだけどな。 これからナカジとあんまん食べるんだ、リュータも行く、というお誘いを断り、 (バイトの時間までまだあったけれどあのナカジとこの太郎に、自分は邪魔な気がした。)リュータは頭を掻いた。 自分も人のことは言えないが、太郎の天然ぶりには敬意すら覚える。 あれでは最終的に苦労するのも楽をするのもナカジだろうに。
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