裏日記
WJやゲーム等各種ネタバレ注意!!
ジャンクSS、愚痴、諸々。
ホームページ最新月全表示|携帯へURLを送る(i-modevodafoneEZweb

2009年10月
前の月 次の月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新の絵日記ダイジェスト
2012/07/19 君の音を聴かせて
2012/07/18 君の音を聴かせて
2012/07/16 花火
2012/07/02 君の音を聴かせて
2012/06/01 無題6

直接移動: 20127 6 5 2 1 月  20118 月  20108 6 4 2 1 月  200912 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 月  200812 11 10 9 8 7 6 5 4 2 1 月  200712 11 10 9 6 5 4 3 2 1 月  200612 11 10 9 8 7 5 4 3 2 1 月  200512 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 月  200412 月 

2009/10/12(月) 夕涼み
「ねえ、これ着てみてくんない。」

 窓から入った夜風が、蚊取線香とKKの吐いた煙草の煙を混ぜていく。ようやく東京の気温も、十の位が3になることが少なくなってきた残暑の折。
 今日は親戚が来るとかで、早く引けた店から直接来たらしいマコトが、風呂敷包みから出した何やらぱりっとした濃紺の和服を手渡して言うことには。
「貰ったから、よければ着てみて、今。」
「別にいいけどよ、……つか、『貰った』?」
手触りからしてそれなりに値の張りそうなものである。セレブな奥様のファンでもついたんかと、聞く前にマコトが早口で答えた。
「叔母さんが、銀座で和服屋やっててさ、たまに来るんだよ、世間話と髪切りに。」
聞き慣れない単語が並んだ。うまく話が呑み込めないのは、マコトが何処か不機嫌そうな口調で話すから。KKはそれを落ち着かせようと殊更ゆっくり言葉を紡ぐ。だからもう一度、同じことを、聞いた。
「…それで、何で、浴衣?……俺に?」
マコトはチッと小さく舌打ちをした。明らかに挙動が不信で、らしくなかった。マコトが困ったような顔をする間の、居心地の悪い沈黙。

「……人の厚意は、ありがたく受け取っておけば。」
「好意?いやいや、ちゃんと説明しなさいよ。」
経験上得体の知れない物には近づかないようにしている、とは言えずに噛み合わない会話を続けた。マコトがいつも通りにスラスラと、ムカつくくらい自信たっぷりに自分を言い包めてくれれば素直に受け取るものを。
「座れば、」
言われてKKは、浴衣を手渡されてぼけっとつっ立っていた正面から、座るソファの、隣へ。

「何かさー、俺と母さんしかいなかったから、店内。俺の方のお客さんも帰っちゃって。まぁ、近況と、世間話と。そんで、急に叔母さんがお友達のけーちゃんはお元気?って……。」
もしかしなくともその「けーちゃん」というのは自分のことだろうかと、思ってKKは噴いた。マコトもその反応は予想していたようで困った顔をしたまま肩を少しすくめた。
「俺も驚いた。母さんが「良い男なのよー」って言ってたよ。」
「…………そりゃどうも。」
そんな噂話は間違ってもマコトの親父さんに聞かれたくないな、とKKは思ったが、会話が手に持った浴衣とまだ繋がらないので黙っておいた。
「それでさー、叔母さんのお店で仕立てた物なんだけど、サイバーにはちょっと大きいだろうから、良かったらけーちゃんと着なさいって。」
理由なんて俺が聞きたいくらいだよ。マコトが唇を尖らせて事の顛末をそう締め括ったので、KKは相づちをうつしかなかった。

「ふぅん…。」
「……たぶんさ、」
遠い目で正面を見つめてマコトは言う。
「母さん達からの激励、なんだと思う。」
「何の?」
「だから……っ俺、とアンタの?」
「は?」
「……………。だって、そうとしか考えらんないもん。」
「待て待て?…だって言ってないだろ、俺らのこと。なん、」
「女の勘?」
「……………。」
ここまで聞いてKKは絶句した。絶句したまま額に片手を当てて深く息を吐いた。片手の下で、眉間には皺を寄せていた。
「からかってるわけじゃないと思うけど……面と向かって言ったら俺らが困るだろうから、母さんなりに気を使ってくれてるんだと思う。」
「ばれてるってことか。」
「うん……全部が全部って訳じゃないだろうけど。」
「……女は恐ぇな。」
「迷惑だった?」
「いや、んなことねぇよ。ありがてぇ、んだと思うわ、多分。」
「ふぅん…。」
互いにどことなく他人事の様な反応だった。そよりと、涼しい空気が足元に流れた。南向きのKKの家では、この頃夕方になると窓から風が入る。

「…線香みたいな匂いすんな。」
抱きしめている胸の辺りから嗅ぎなれない匂いが漂ってくるので、KKは呟いた。胸がすっとするこの匂いは、嫌いではなかった。
「…っし、じゃあ、着るか。」
「ぁー、うん……。」
「何だよ?」
「何でもないよ。アンタ着付け方わかるっけ。」
「去年一緒に祭り行ったじゃねぇか。お前ぇ、今日はやけに歯切れ悪いのな。」
「……別に。」
KKも、マコトが照れ臭く思う気持ちは理解できる。喜怒哀楽のはっきりと浮かぶ表情も今日は何処か不安定で、いつもは真っ直ぐ見返してくる視線も定まらずウロウロと泳いでいた。普段はそんな柄でもないので、戸惑う様子は可愛く思えた。
「…あ、これ、お前も着るよな?」
風呂敷の中に残っていたもうひとつの浴衣を勝手に取り出して、いささか強引に事を進めた。ポン、とマコトの背中を押して促した。
「折角貰ったんだから、着てみようや。」


いつもは肩口から外へ向かって綺麗にはねているオレンジの髪も、うしろひとつで括ってあって。緑の浴衣に身を包んだ、その姿だけでクーラーひとつ分くらいは涼しいと、KKは思う。もっとも、その分体の中にもやっとした熱が溜まっていくような気もするが。
「団扇あった。」
「おおナイス、雰囲気出るな。」
「枝豆茹でといた。」
「んだよ、準備いいな。」
「ビールはあるだろ?」
「へいへい。」
 程なくして部屋に響いたカシュッという音が、ふたつ。缶のまま乾杯をしたので鈍い音がした。

------------------------------------------------------------
ここまで書けてたのに放置してたな…。これいつぞやの夏のリクエストなんですが、あむかさん…。

2009/10/11(日) こんなに晴れているのに
午後から雨だって。

 お客さんを見送って母さんが告げる。
「え〜?すっごく晴れてるよ?」
「なーに言ってるマコト。女心と秋の空ってなぁ。」
「うん?何?」

反応の悪い長男に、秋でも冬でも関係ない色黒の父が応える。つまり秋の天気は変わりやすいということか。予約表を捲りながら適当に相槌をうつ。

「じゃあ、俺ご飯食べてくるね。お疲れさまでーす。」
カウンター横にかけてある帽子を被り、サロンのドアに手をかけた。
「気をつけて行くのよ。」
「はぁい。」
「Kちゃんに宜しくね。」
「!!」
「あぁ?!お前まだあんなクソガキと付き合ってんのか!?」
「ちょっと母さん!」
「あらあら、ごめんなさいね。秘密だったかしら。」
「あんな奴に会う暇があるんだったら、」
「わかったわかった小言は帰ってから聞くから!あんな奴とか言うのヤメテほんと。」
「逃げんのかマコト、こら!」
「いいじゃないのあなた。ね?」

母さんは二十歳を過ぎた息子がいるとは思えない、甘く軽やかな声を出す。心中で「クソ親父」と罵りつつマコトはこっそり急いで店を出た。

雨はいつ降り出すかわからない。とりあえず今はまだからりと晴れていた。
---------------------------------------------------
マコトの父親は洋次郎さんという懐かしい設定。
表の日記が稼動していない時はこっそりこちらが進んでいる癖があります。

2009/10/05(月) お前らおかしいって
 柔らかい白木のローテーブルの上に、袋の口を全開にしたスナック菓子を乗せて、飲み物は兄弟がこの体勢を築いただいぶ初期の頃に2人分仲良く空になっており、水滴のみが残るコップがふたつ、テーブルの端に乗っていた。喉が乾くはずのスナック菓子を食べているのにも関わらず、コップの中身だったアイスティーがいつまで経っても補充されないのは、単にマコトが今の体勢を崩したくないからなのだろうと、KKは推測していた。何とも進展しないこの現状を打破すべく、流しながら読んでいた雑誌から顔をあげ、テレビに夢中な兄弟に目をやった。ソファーに腰かけているKKから、床に直接座っている兄弟はよく見える。マコトの背中と、ソファーの向こうに裸足がのぞいていた。淡い緑色のTシャツに浮いた肩甲骨を眺める。丸まった背中はもちろん振り返りはしない。
 ふらり、とマコトの右腕が動いた。ゆっくり、宙をさ迷ってローテーブル上へ移動する。指が細くて、意外と仕事のせいで荒れていて、どんな仕草も優しく柔らかいマコトの手がKKはかなり好きだ。恋人のどこの部位が好きか、なんて下世話な話のネタを振られた時にはすぐ1、2位にあがるだろう。そんな手が、テーブルの上のスナックを3個つまんだ。ちなみにここまで一切マコトは目を使っていない。終始視線は前方のみに向けられていたので、もちろんKKの方を振り返るなんてことはない。つまんだスナックの内1つだけを器用に口許に運び、残り2つを手のひらに乗せるべく指を動かした。その、スナックを。
 パクリ。
 と、急襲する水色の頭がいた。湿気で様々な方向へハネた蛍光水色の髪をゆらしながら、弟・サイバーは兄の手から勝手にスナック菓子を食べていった。更に、マコトの手のひらに残った1個は、まるで雛に餌付けする親鳥がするように、当たり前にサイバーの口に放られた。あんぐりと開けて待ち受けていたサイバーの、口の中へ。それは1oの無駄も隙も無い動作だった。
 この兄弟、さっきからこの調子なのだ。今のやりとりもKKが目にしただけで5回は繰り返しているから、実際はもっとしているに違いない。何の間違いもなくマコトは弟の口にスナックを運び、何の疑いもなく弟はそれを頬張る。
 そもそも、その体勢もKKからしてみたら甚だ疑問なのだが、いつもその体勢でテレビ観てんの?いやいや、いつもということはさすがに無いだろうけど、今日のはマコトが最近弟分が足りない!と叫んでの現状な訳だし。しかし、そのKKにしてみたらよく解らないマコトの理由をにぱっと笑ってすんなり受け入れられる弟も少しおかしいだろう。大人しく、兄貴の腕の中に収まって甘えるように背中を預けてテレビを観るのは、高校生になったこの家の次男にとってそんなに自然なことなの?
 もはやどこから突っ込んだらいいのかわからなくなり、KKは始める前から現状打破を諦めた。勝手にしろ、という気持ちで雑誌の次のページをめくった。

2009/10/04(日) もう限界だった。
 ただ生きていることを、辛いと思ったことはなかった。だから、目の前で寂しそうに笑う友人に何と言ってよいのか、マコトにはわからない。

それは3月の、もう暖かくて穏やかな春を迎えた日だった。冬の間中冷やされきってしまった城も、雪解け水に柔らかく濡れていた。城主であるバンパイアの希望で、テラスにイスを出して髪を切っていた時のことだ。何とはなしに、その景色を眺めて感想を述べてみたら、トーンの下がった答えが返ってきた。

「春は…好きではないな…。」


 Copyright ©2003 FC2 Inc. All Rights Reserved.