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2005/09/03(土)
第4部・その5
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「別に。ただ…初心者相手に本気でくるなんて大人げないなぁと思って」 「っ、亮君!!声が大きい…」 「君もまだまだ子供だな。璃奈への愛のためならば初心者だろうが容赦はしないっ!」 「アンタもさ、こんな奴が婚約者で疲れないの?」 いきなり話を振られ、璃奈様は一瞬驚いたような顔をした…ように見えたが、すぐにいつもの無表情になり、髪を少し整えながら言った。 「まぁ、確かに煩わしいしやかましいし精神的に子供だが、目の前にいる無味乾燥な男よりはよっぽどマシだろうな」 「それを言うならこっちだって目の前にいる女王様気取りのたいして可愛くもない女よりも俺の実沙の方が数倍もマシだけどね」 「何ぃ?!大体彼女は君のことにまるっとすりっとどこまでも気づいていないじゃないか!!俺の愛しの天使・璃奈を侮辱するとはーーー!!世界中のどこを探したって、こんな美しくてちょっぴり照れ屋さんなところがまたキュートで素晴らしいマイスイートハニーな女性は彼女しかいないっっっ!!!」 いきなり、彼氏彼女自慢を始める3人。 それを聞いていた彼女いない歴6年目突入の直やんは体をフルフルと震わせて怒りをあらわにしていた。 「いい加減にせいやボケェェッ!!さっきから聞くいとりゃあテニスもせぇへんでイチャこらしやがって聞いてるこっちの身ぃも考えろや!いてまうどわれぇぇぇっ!」 「何語?」(←ほら亮君帰国子女だから) 「あーだまらっしゃい!!試合始めんかコラァ沈めるでっ!!」 「どこに?」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜こんの帰国子女がぁ!!」 亮君に悪気は全くもってない。 いくら聖学に通っている生意気なクソガキだろうと子供なのだから好奇心が旺盛なのだ。 「な、直やん落ち着いて!!相手は年下だよ!?」 「そうだぞ直やん、ひがみはみっともないぞ」 「いい加減にしろ!!」 ………………しぃーーーーーーーーーーん……………… あたりに実沙の叫び声が響き渡り、屋上が一瞬静まりかえる。 「ごめん実沙」 「み、実沙。俺たちが悪かった」 「…さてと。続けるぞ、イチ」 「オッケー!マイハニー!!」 相変わらず冷たい璃奈様と、ノリノリのイチ様が、何事もなかったかのように会話をする。 「あー……ほんなら40-15で再開やっ!!」 直やんの言葉にイチ様がサーブの構えをとる。 「イチ、私達がリードしているからといって油断はするなよ。越前亮は既にプロに匹敵するテニスプレイヤーの腕を持っている」 「ふっふーん。彼がプロなら俺はトッププロだね。俺に任せておけば万事OKさ!さあ、行くぜっ!」 「まだまだだね」 イチ様のサーブに挑むように、亮君はグッとラケットを握った。 そのままイチ様のサーブを難なくと打ち返し、ボールは璃奈様の足下へと向かう。 「その言葉、そっくりそのまま返してやる」 璃奈様が素早く返したボールは、実沙の方へ飛んでいった。 「私は…負けないっ!」 実沙の打ったボールは相手のコートに入ったと思ったら、弾まずに戻ってきた。 一瞬で、場の空気が固まった。 「なっ?!今、一体何が…!?そんな時はてるてる!」 「そんなこと言われてもっ!ドロップショットの一種だと思うけど…」 屋上では混乱の空気が流れ始める。 「…………………亮君、今の何?」 自分でやったことが信じられないのか、実沙は呆然としながら亮君に説明を求める。 「…今のは、まさか……○式…」 「聞いたことあるでーーーっ!梅組の手塚先生がプロやったころに使っとった、伝家の宝刀やろっ!わい始めて見たで!感激やーーーーっ!!」 何というか。 シリアスぶちこわしである。 「えっ?!何それ!?私そんなの知らないよ?!」 しかし、普通に打っただけなのにそんなすごいことなんてできるモノだろうか。 甚だ謎であるが、実沙ならやりかねない気がするのでOKである。 「ふっふっふっ。○式か…それでこそ倒し甲斐があるというものだ。イチ!潰すぞ!!」 そんなこんなでいろいろあって6-6、タイブレークの6-5で年長チームがマッチポイントを迎えていた。
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