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2008/05/27(火)
渋谷・妹バラバラ「殺人」懲役7年 多重人格で死体損壊は無罪 心神喪失を認定
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東京都渋谷区の短大生、武藤亜澄さん=当時(20)=を殺害、遺体を切断したとして、殺人と死体損壊の罪に問われた次兄の元予備校生、勇貴被告(23)の判決公判が27日、東京地裁で開かれた。秋葉康弘裁判長は、死体損壊罪については「解離性同一性障害(多重人格)で生じた別人格に支配され心神喪失状態だった」として無罪としたが、殺人罪については完全責任能力を認め、懲役7年(求刑懲役17年)を言い渡した。多重人格を理由に心神喪失を認めた司法判断は極めて異例。
争点は犯行時、勇貴被告が多重人格に支配された心神喪失状態だったか否か−に絞られていた。鑑定医の東京女子大の牛島定信教授(精神医学)は「生来の(対人関係をうまく築けない)アスペルガー障害、中学時代からの強迫性障害に加え、犯行時は解離性障害を発症していた」との鑑定結果から「殺害時は心神耗弱、遺体損壊時は心神喪失状態」との見解を示していた。
秋葉裁判長は、鑑定結果について「手法や判断は合理的で信頼できる」と指摘。その上で死体損壊について、左右対称に15の部位に解体した行為が「本来の人格とは違う獰猛(どうもう)な別人格を仮定しないと説明がつかない」とした鑑定結果を支持した。
犯行時の記憶がないことなどから、本来の人格が別人格を認識していないとして「別人格に支配されて自分の行動を制御できなくなっていた」と判断、心神喪失状態だったとした。
一方、殺害時は、「障害の影響で怒りを抑える力が弱まっていた」としながらも、直前までトラブルもなく日常生活を送っていたことなどから「責任能力に影響するほどではない」とし完全責任能力を認めた。
刑事裁判で多重人格を認めた判決は、これまでに少なくとも3例ある。このうちの1例は、東京地裁で秋葉裁判長が今年2月、自ら実刑判決を言い渡した事件だ。
この事件では、殺人罪などに問われた被告に「3つの別人格が存在する」と認めた上で、「責任能力のある本来の人格が別人格の行為を認識している場合は、別人格にも責任能力があったとすべきだ」との判断を示して完全責任能力を認め、懲役11年とした。
これに対し勇貴被告の判決では、本来の人格が別人格を認識していないとの判断であり、同じ多重人格でも有罪と無罪の差はここに生じた。
しかし、多重人格については、精神医学の分野でも診断方法などをめぐり意見が分かれていることから、「責任能力についても、まだグレーの領域」との意見が支配的だ。
関西学院大の野田正彰教授(精神医学)が「責任能力が問われるのは統合失調症のような精神障害であって、神経症の一種の多重人格では責任能力を認めるのが一般的」とする一方、ある精神科医は「責任能力は症状の程度によって判断すべきだ」とも指摘している。
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