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2008/12/09(火)
<広島女児殺害>ヤギ被告の無期破棄、差し戻し「現場誤認」
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広島市で05年11月、小学1年の木下あいりちゃん(当時7歳)が殺害された事件で、殺人罪などに問われたペルー国籍のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(36)の控訴審判決が9日、広島高裁であった。楢崎康英裁判長は「検察官調書の審理をせずに犯行現場を誤認しており、手続き上の法令違反は明らか」として、無期懲役(求刑・死刑)とした1審・広島地裁判決(06年7月)を破棄し、審理を地裁に差し戻した。
判決は「(1審は)裁判の予定を優先するあまり、公判前整理手続きを十分せずに終結させた」と断じた。控訴審判決が同手続きでの地裁の判断について言及したのは異例。
判決によると、地裁は公判前整理手続きで、被告が犯行当日、自宅から毛布を持ち出していないと受け取れる検察官調書について、弁護側が任意性を争うために請求した証拠調べを却下した。
判決は、毛布に被害女児の毛髪などが付着しており、この供述が信用できるとすれば犯行現場は被告の自宅と認定できたと判断。現場を「被告の自宅アパートかその周辺」とした1審判決を事実誤認と批判し、証拠調べを却下した判断を「審理不尽」と結論づけた。
さらに、「現場が屋内か屋外かは犯行の経緯などにも影響する」とし、「犯行現場をあいまいなままにして量刑を判断するのは相当でない」とした。
1審判決によると、被告は05年11月22日午後0時50分ごろ、広島市安芸区矢野西4の自宅アパート前で女児に声をかけ、アパートやその付近に連れ込むなどし、手で首を絞めて殺害。室内にあった段ボール箱に遺体を入れて近くの空き地に放置するなどした。
原告側、被告側双方は量刑不当として控訴。弁護側は「精神疾患により責任能力を喪失していた可能性は否定できない」と1審に続いて殺人と強制わいせつ致死罪について無罪を主張。検察側は翻訳作業などに手間取り、公判前整理手続きに間に合わなかった、被告がペルーで女児への強制わいせつの疑いなどで起訴された刑事記録などを証拠として提出し、控訴審で一部が採用された。
◇あいりちゃんの父「想定外」
「(死刑か無期懲役か)いずれかの判決が出ると思っていた」。あいりちゃんの父建一さん(41)は裁判所近くで1人で会見に臨み、「想定外で残念」「極刑でなくても、受け入れる覚悟をして臨んでいた」と、言葉を選びながら話した。
審理が差し戻されたことについて「遺族の苦しみが長引くのかと感じて非常につらい」と述べたが、「(差し戻し審では)真実が明らかになってほしい」と話した。判決が「審理が不十分だった」と指摘した公判前整理手続きについては「裁判が早く終わり、遺族の負担が少なくてよかったが、事件によっては限られた時間では審議できない犯罪もあり得る」と述べた。
一方、被告側の弁護団も記者会見。井上明彦弁護士は「原審の不手際がすべて被告人の不利になるリスクがある判決。上告を検討している」と述べた。
◆広島小1女児殺害事件控訴審判決骨子◆
1 被告宅の毛布に被害者の毛髪と血が付着し、被告が毛布を持ち出していないという供述が信用できれば、犯行現場が特定できる。
2 検察官調書に毛布を持ち出していないと受け取れるような供述があるが、地裁は公判前整理手続きで弁護側の証拠調べ請求を却下した。
3 このため地裁判決は犯行場所を誤認した。訴訟手続きの法令違反であり、この調書の証拠能力について審理を尽くす必要がある。
【ことば】広島小1女児殺害事件
05年11月22日、広島市安芸区の空き地で段ボール箱に入った木下あいりちゃん(当時7歳)の遺体が見つかった。あいりちゃんは下校途中だった。殺人罪などに問われたペルー国籍のトレス・ヤギ被告に対し、06年7月の1審・広島地裁判決は無期懲役(求刑・死刑)を言い渡したが、「一生をもって償わせるのが相当」と異例の言及を行った。
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