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2006/03/25(土)
<尊厳死疑惑>殺人容疑も視野、慎重に捜査 富山県警
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富山県射水(いみず)市朴木、射水市民病院(麻野井英次院長、200床)の外科部長(50)が00〜05年、がんなどで意識不明になった入院患者7人の人工呼吸器を病院側に告げず独断で外し、その後、7人が死亡していたことが25日、分かった。 昨年10月、別の入院患者の人工呼吸器を外そうとしているのを知った看護師長が院長に報告し、病院側が内部調査して発覚した。外科部長は「患者のための尊厳死だった」と病院側に説明したが、いずれも家族が同意した書面はなく、少なくとも6人については本人の生前の意思を確認していなかった。 専門家は「尊厳死にも安楽死にも当たらない」としており、県警は殺人容疑などでの立件も視野に関係者から事情聴取し、慎重に捜査を進めている。 病院の説明では、昨年10月上旬、富山県在住の男性患者(78)がこん睡状態で病院に運び込まれた。外科部長がこの患者の人工呼吸器を外すように指示しているのを知った看護師長が同12日、院長に相談。院長は指示を中止させ、同日、病院内に調査委員会を設置した。 調査委は過去10年間にさかのぼって、院内で同様の事例がなかったかを調査。その結果、50歳代から90歳代の患者7人(男性4人、女性3人)が人工呼吸器を外されていたことが分かった。当時、いずれも富山県内に在住。7人とも末期症状で意識がなく、5人はがん患者だった。 家族の同意について病院側はカルテに記載があったというが、外科部長は同意書を求めるなど文書での確認はしていなかった。7人のうち1人については、家族が生前、延命治療の中止に同意していたと話したというが、調査委は7人の家族に再度、確認作業をしていない。 外科では外科部長を含む医師4人と看護師が複数で患者の治療に当たっており、病院側は、他の医師や看護師は以前から、7人の人工呼吸器を外した行為を知っていたのではないか、としている。 昨年10月に男性患者が入院した時は外科病棟のベッドが満床で、内科病棟に搬送した。そのため内科の看護師長が、人工呼吸器を外そうとしていることを知って院長に報告した。麻野井院長は、「外科の他の医師や看護師は部長の指示に逆らえなかったのではないか」としている。 また麻野井院長は会見で、尊厳死には、複数の医師が繰り返し患者が末期状態にあることを確認し、患者本人の意志を確認する作業が必要と説明。外科部長の行為について、「こうした手続きをしておらず問題」と話した。 病院は問題発覚直後の昨年10月16日、射水市と県、県警に事案を報告。また、外科部長は同14日から1カ月の自宅待機処分とし、11月25日から金沢大医学部に研修に出した。同医学部では治療行為には従事していない。 外科部長は岐阜大医学部卒。95年、射水市民病院(当時は新湊市民病院)の医長に就任。97年に同病院の外科部長に就任した。外科部長は3月6日に市民病院に辞表を提出しており、3月末で退職予定。 外科部長は25日午後、自宅前で「今はコメントを差し控えたい」などと語った。 ◇事情聴取し慎重捜査 富山県警の安村隆司本部長は「関係者から事情聴取等を行い、慎重に捜査を進めている。現時点において、詳細なコメントは差し控えさせていただきたい」との談話を出した。 ▽医事評論家の水野肇さんの話 医師は「尊厳死だった」と説明しているようだが、尊厳死の規定はあいまいとはいえ、本人が健康な時に延命治療を拒否する意思を示していることが大前提だ。家族の了承を取ったというが、患者本人から同意を取ることなく、医師が治療中止を決めるのはおかしい。殺人容疑を視野に入れた捜査が行われても仕方がない。また、最近はがんの薬物療法が発達しており、手の施しようのない患者は少なくなっている。本当に治療を打ち切らなければならなかったのだろうか。 ◇安楽死と尊厳死 安楽死は薬剤などを投与し、積極的に生命を縮める行為。横浜地裁が95年に東海大病院事件の判決で合法となりうる4要件として、(1)肉体的に耐え難い苦痛(2)死期が迫っている(3)苦痛を和らげる方法がない(4)患者の明らかな意思表示――を示した。 一方、尊厳死は人工呼吸器を外す行為などを含む延命治療の中止を指す。同地裁判決の中で、合法となる治療中止(尊厳死)の3要件として、(1)死が不可避な末期状態(2)患者の意思表示(家族による推定も含む)(3)自然の死を迎えさせる目的に沿って中止を決める――ことを挙げた。
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