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2005/07/14(木)
<芥川賞>中村文則さんに決定 直木賞は朱川湊人さん
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第133回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考委員会が14日、東京・築地の「新喜楽」で開かれ、芥川賞が中村文則さん(27)の「土の中の子供」(「新潮」4月号)に、直木賞は朱川湊人さん(42)の「花まんま」(文芸春秋)に決まった。芥川賞史上、20代の受賞は24人目。男性では02年の長嶋有さん(29歳で受賞)以来になる。 両賞は菊池寛が1935年に創設して今年で70年(45〜48年に8回休止)。節目の年にふさわしく、フレッシュな顔ぶれの受賞になった。贈呈式は8月19日午後6時から、東京・丸の内の東京会館で開かれ、正賞の時計と副賞100万円がそれぞれ贈られる。 中村さんは東京都新宿区の新潮社で、編集者らと連絡を待った。午後6時半過ぎ、携帯電話が鳴り、数秒、うなずきながら話を聞いた後、「本当ですか。ありがとうございます」。右手で小さくガッツポーズをした。「びっくりした。とても大きな賞で、取れるとは思えなかった。今後もいい作品を書くことを前提に与えられる賞だと思うので、身が引き締まります」と笑顔で話した。 中村作品は、両親に捨てられ、引き取り先の親せきにも虐待されて、土に埋められ殺されかけた青年が主人公。「私」は人とのつながりを求め、常に苦しみの渦中に飛び込んでしまう。社会に違和感を覚えながらも、何とか前向きに生きようとする魂の苦闘が躍動感のある文章で描かれている。 一方、朱川作品は昭和40年代の大阪の路地裏を舞台に子供を主人公にした短編6編を収録。朝鮮半島のお化けのトカビや葬式で動かなくなった霊柩(れいきゅう)車などが登場するホラーの中に、そこはかとない人生の哀感を描き出した。 中村さんは記者会見で受賞作について「虐待問題は入り口で、戦争をはじめとする無造作な暴力を、被害者の立場から書こうと思った。これからは人間の内面を掘り下げるような作品を書きたい」と喜びを語った。 朱川さんは「最初の本を出してから2年ちょっとで、こんな大きな賞をいただき、頭の中が真っ白な状態です」と喜びを語った。 ◇観念に血肉与えた 芥川賞選考委員の高樹のぶ子さんによると、「最終選考に残ったのは、中村作品と伊藤たかみさんの作品だった。最後は2作同時受賞か、中村作品のみかの決選投票が行われ、過半数に達した中村作品の受賞が決まった」という。 中村作品については「暴力という圧倒的な力に対し、主人公は恐怖を克服することで勝とうとした。観念から出発し、そこに血や肉を与えた小説で、今の時代では逆に新鮮だった」と語った。 【略歴】中村文則さん(なかむら・ふみのり) 愛知県生まれ。福島大行政社会学部卒。02年に「銃」で新潮新人賞を受賞してデビュー。04年「遮光」で野間文芸新人賞受賞。他に「悪意の手記」など。愛知県東海市在住。 【略歴】朱川湊人さん(しゅかわ・みなと) 大阪市生まれ。5歳で東京都に引っ越す。慶応大文学部卒。出版社勤務を経て、02年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞。03年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞。他に「都市伝説セピア」など。東京都足立区在住。
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