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2004/03/19(金)
陳総統ら狙撃、負傷
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台南市中心部で19日午後1時45分(日本時間同2時45分)ごろ、四輪駆動のオープンカーに乗って選挙遊説をしていた陳水扁総統(53)と呂秀蓮副総統(59)が何者かに銃撃され、負傷した。正副総統は20日に投票が迫った総統選のため、車上から沿道を埋めた支持者らに手を振り、声援に応えていた。2人とも命に別条はない。
中央選挙管理委員会は、同時実施される総統選と初の住民投票を予定通り行うことを決めた。総統選は再選を目指す民進党の陳総統と、野党連合の連戦・国民党主席(67)が競り合う展開だった。与党側はやや劣勢とされてきたが、銃撃事件が有権者の投票動向に影響を与える可能性が出てきた。
2人を銃撃した犯人は捕まっておらず、なぜ陳総統らを狙ったのか動機などもわかっていない。銃撃で受けた2人の傷の位置や角度の違いから、捜査当局は複数の犯人が別々の場所から銃撃した可能性が高いとみている。拳銃が使用された模様だ。
総統府によると、呂副総統が右足に痛みを感じ、続いて隣に立っていた陳総統も腹部に違和感を感じたという。
病院によると、陳総統はヘソの下に銃弾を受けた。銃弾は体内に入っていないが、長さ11センチの傷口ができ、14針縫った。呂副総統は右ひざ部分を銃撃され、1〜2センチの深さまで傷を負った。
事件後、台南市内の総合病院に搬送された2人は、治療を受けたあと、同夜、専用機で台北へ戻った。
現場の路上で、銃撃に使われたとみられる銃弾の薬きょう2個が見つかったほか、銃弾の一部が陳総統の衣服から発見された。
台湾総統府の邱義仁秘書長は緊急会見し、「全国民は平静を保ってほしい」との陳総統のコメントを伝えた。
台南市など台湾南部は陳総統の強固な支持基盤で熱烈な支持者が多い。事件発生時、総統一行が低速で通りを通過するのに合わせ、支持者らが大量の爆竹やラッパを鳴らしていた。このため、2人を狙った銃弾の発射音が聞こえなかったようだ。オープンカーのフロントガラスには弾痕が残っていた。
台湾の治安当局は銃撃事件を「国家安全」にかかわる緊急事態と認定し、情報機関や捜査機関が厳戒態勢に入った。また、台南市政府は同夜、300万台湾ドル(約1000万円)の懸賞を出し、犯人逮捕につながる情報の提供を呼びかけた。
また、19日は選挙運動の最終日だったが、与野党両陣営とも事件後、一切の活動を停止した。
陳水扁(ちん・すいへん)氏(53) 南部の台南県出身。台湾大3年の時、当時最年少で弁護士試験に合格。人権デモ隊と警察が衝突した79年の美麗島事件で、民主活動家の弁護を担当したのを機に政界入りした。94年に台北市長に初当選し、国民党の1党支配に風穴を開けた。呉淑珍夫人は政治テロともいわれる交通事故で下半身不随となり、車椅子生活を送る。
呂秀蓮(ろ・しゅうれん)氏(59) 台湾初の女性副総統として陳水扁総統を支えてきた。台湾大学卒業後、米イリノイ大学で法学修士号を取得。国民党の一党体制下で民主化運動を進め、逮捕・投獄された。93年に立法委員(国会議員)に当選。桃園県長などを歴任した。歯に衣(きぬ)着せぬ言動で知られる。
正副総統が銃撃された台南市は人口54万。台湾で最も長い歴史を誇る古都だ。1949年、中国大陸での内戦に敗れた蒋介石率いる国民党が台湾に逃れ、独裁政治を強いた後も、反骨心を示してきた。台湾色が濃いことでも知られ、民進党の強固な地盤でもある。
陳水扁総統は台南市を取り囲む台南県の出身。対立候補で中国西安生まれの連戦氏も祖先の戸籍地は台南市だが、台南県・市の有権者の支持は圧倒的に陳氏だ。
陳陣営は台南県・市で65%の得票率を目指しており、台南県選挙本部幹事長を務める蘇煥智・台南県長は「台南県は台湾一の得票率を記録してみせる」と語っていた。
◇爆竹、銃声かき消す
【台南・成沢健一】銃撃事件は陳水扁総統らが選挙用のオープンカーに乗って台南市中心部を走り、沿道に並んだ市民に手を振って支持を訴えて回っている最中に起きた。台南は陳総統の地元でもあり、支持者らは小旗を振ったり、爆竹を鳴らしたりして熱狂的に支持を表明していた。台湾中央通信によると、事件当時、現場にいた市民の一人は「人と車が多いうえ、爆竹の音がうるさく、銃声は聞こえなかった」と話す。
陳総統と呂副総統は病院に運ばれ、緊急治療を受けた。陳総統は14針縫ったが、内臓には達しておらず、自分で歩いて治療室に入っていったという。銃弾は総統の腹部をかすめており、一歩間違えば致命傷になりかねなかった。
陳総統の背中とジャンパーの間から金属片が発見され、鑑定の結果、銃弾の破片と判明した。銃弾は選挙カーのフロントガラス右側を突き破っており、選挙カーの進行方向右側から発射されたとみられる。警察当局は、犯人は群衆にまぎれ、爆竹の音を利用して拳銃で狙撃したとみている。
病院には民進党の蘇煥智・台南県長ら支持者や関係者が次々と訪れた。一時は悲痛な雰囲気も漂ったが、生命には別条ないとの情報が伝わると、安堵(あんど)が広がった。夜になって2人が病院から台北に向かうと、支持者から激励の声が飛んだ。台北市内の民進党本部や選挙総本部にも数千人の支持者が詰めかけた。
最高指導者を狙ったテロに、国家安全会議や国防部(国防省)はそれぞれ緊急会議を招集、台北は終日、緊迫したムードに包まれた。
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