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2004/10/27(水)
わずかなすき間、2歳児の声…地震から92時間
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押しつぶされた車と岩のわずかなすき間で、2歳の男の子は生きていた。新潟県小出町の主婦皆川貴子(たかこ)さん(39)ら母子3人が巻き込まれた長岡市の土砂崩れ。長男の優太(ゆうた)ちゃん(2)は27日午後、レスキュー隊員の手で奇跡的に救出された。
2時間後に運び出された貴子さんはしかし、ほぼ即死状態で発見され、長女の真優(まゆ)ちゃん(3)の救出も難航している。地震発生から92時間余。祈り続けた家族らは優太ちゃんの無事を喜びながら、3人そろっての救出とならなかったことに、無念の思いをかみしめた。
長岡市妙見町のがけ崩れ現場で、東京消防庁のハイパーレスキュー隊などによる救助が始まったのは27日午後1時45分。土砂に埋まったワゴン車の中に、隊員が「だれか聞こえるか」と声をかけたところ、「あー、うー」というかすかな反応があった。
「本当か」「まさか」。驚きの声を漏らした隊員たちは、すぐに「よし、絶対に助けるぞ」と言葉をかけ合い、作業に取りかかった。
5―10トンもの巨岩に押しつぶされたワゴン車。だが、スコップなどで車の周りの土砂を慎重に取り除くと、横倒しになったワゴン車の底部と岩の間にできた幅50センチ、高さ1メートルほどの空間に、優太ちゃんが立っているのが見つかった。
トレーナーに紙おむつだけという姿の優太ちゃんは、自力で車外に這(は)い出し、この空間に入っていたとみられ、衰弱のせいか、ぼうっとしている感じだった。しかし、隊員たちが「よく頑張った」と声をかけると、両手を広げて隊員にしがみついてきた。抱き上げられた優太ちゃんは、隊員数人の手でリレーされるようにして大切に担架に乗せられヘリコプターで運ばれた。
一方、車内に残された2人の救助は難航した。レスキュー隊員はフロントガラスを外し、懐中電灯で照らしながら、車内に入り込んだ岩を数人がかりで一つずつ取り除き、運転席でハンドルに腕がかかった状態の貴子さんを見つけた。
その間に何度も余震が襲う。陸上自衛隊の医師らが貴子さんに手を添えて脈拍を測ったが、「バイタルサイン(心拍や呼吸など生存を示す兆候)」を確認することは出来なかった。
貴子さんが運び出されたのは、優太ちゃんの救出劇の約2時間後。隊員たちは、貴子さんの全身を毛布にくるんで担架に乗せ、岩の間を縫うようにして慎重に河原まで下ろした。貴子さんは優太ちゃんの待つ病院に運ばれたが、午後5時6分、死亡が確認された。
貴子さんが発見されたころ、ワゴン車の後部座席では、真優ちゃんが土砂に埋まっているのが見つかった。午後5時過ぎに現場を離れた隊員たちは、午後7時すぎに活動を再開。隊員の1人は「希望は捨てていない」と話しながら車内のシートを取り除き、真優ちゃんを救出するため土砂を取り除く作業を続けた。
優太ちゃんが救急車で運ばれた長岡赤十字病院では、鳥越克己・小児科部長らが27日午後7時前から会見し、「助かったのは奇跡に近い」と語った。
同日午後3時すぎに運び込まれた優太ちゃんは体温が低く、脱水症状も見られ、頭にも15―20センチの傷があったが、検査の結果、骨や内臓に異常はなかった。
搬送直後は、意識がもうろうとして、泣き声を上げることもなかった。ただ、ベッドで手当てを受けている時、そばにいた看護師の女性に「ママ」と呼びかけたという。
父親の学さん(37)とは、この病院で再会した。学さんは、看護師の言葉に反応する優太ちゃんの手を固く握って喜んだという。その後、優太ちゃんは学さんに「水が飲みたい」「コップ」と催促した。
医師らが、土砂に埋まった車の中で何か食べ物を口にしたかを聞いたところ、優太ちゃんは「ミルク」とだけ答えたが、幼い子どもの言葉だけに、医師らは「土砂に埋まっている時に飲んだかどうかは分からない」と話している。
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