Rukeの日記
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2004/12/17(金) エンシュー
木曜日の演習は結構失敗してしまった。

これは、軸対称性を持つラプラス方程式の一般解を求め、さらに一様な電場中におかれた電荷Qを帯びた導体球の表面での電荷分布を求めろという問題だ。全く同様の問題が太田先生の電磁気の教科書に載っていたんだけどそこでの説明が気に食わなかった。それは、電荷分布の作る電位を多重極展開しているんだけど、
http://hagi.k.u-tokyo.ac.jp/~mio/note/elemag/specialf.pdf
この文書でいう(2)の展開までしか行なわず、(3)を行なっていないため、電位はすぐ決定する物の、電荷分布を決定するのにストレートではない手順を踏んでいる。電荷分布のある球面調和関数成分が、電位の同じ球面調和関数成分を作るというこの対称性はグリーン関数の対称性とも関連するうれしい性質だろう。つまり多重極展開を完全に行なえば、全ては完全に係数比較だけで済む。電位も電荷分布も二秒で求まる。

だけれど、せっかく軸対象なのだから、ルジャンドル多項式だけで議論を完結させたいのも事実だ。拘りがあって軸対称な場合に限らない一般的な議論を行いたいというならともかく、単に球面調和関数の加法定理を用いるためだけに球面調和関数を導入するというのもオーバースペックな感じだ。軸対称な場合のラプラス方程式の一般解の遠くで収束する成分がr^nの級数である事から、それと比較することで、軸対称な場合の多重極展開を導入する(上の文書の(4)でm=0の項のみが残る)ことはできるけれど、それもこの問題に限った各論になりすぎて嫌な感じだ。

んであれこれ悩んでいた。ところが、もともと何となく、球面調和関数という物に苦手意識があったのが、ルジャンドルの多項式が{1,x,x^2,,,}にシュミットの直交化法を施す事で得られるという話を聞いて、これは、と思った。つまり、有限閉区間上のL^2関数空間の基底を{1,x,x^2,,,}が成すという事実(ただし、これは本質的にはワイヤシュトラスの多項式近似定理であるが、実は余り自明ではない。特に、ノルムに関する収束を考えているのであって、テイラー展開とは全く異なる内容の主張であるということに注意を要する)さえ認めてしまえば、完全に初等的にラプラシアンの固有関数系が構成できてしまうのだ。これが決定的になった。この方向で球面調和関数を導入してしまって、係数比較だけで鮮やかに解いてしまおうと。

ルジャンドルの微分方程式はパラメタを含んだ二階の常微分方程式であるから、本来パラメタの任意の値に対し二つの独立した解を持つ。微分方程式の解、という観点からルジャンドルの微分方程式を議論する限り、どこまでの解を含めるとどのような関数空間を尽くすか、という議論を欠かすことができない。適当な本だと「物理的に意味をなさない」と言って発散解を全て棄却し、ルジャンドルの多項式のみを残すが、考えるべき関数空間が物理的要請からすぐさま決まるのは量子力学の場合くらいしかなく、静電場を扱う場合に、特定の関数空間を考察の対象とする事は一般には正当化されない。そして、解の発散の様子等の扱いは、複素関数論を駆使する面倒な議論が必要になる(らしい)。これはちょっととっつきにくい。また、この立場では解の直交性が示すべき定理となる。この計算はまた非常に面倒だし、直交性は「たまたま成り立っている」というだけでは納得できない著しい性質だ。

いずれにしろ、発散解も適切に扱おうとすれば議論は到底初等的とは言えなくなる。初等的な議論で済ませようとしたら物理的な要請以前に技術的な問題から関数空間の制限は避けられない。それならば、説明になっていない先に結論ありきの説明で関数空間を狭めてしまうくらいならば初めからその関数空間上での議論にしてしまうのが潔い。つまり、始めに

(内積を∫f g* dx(g*はgの複素共役)として)
@有界閉区間上で{1,x,x^2,x^3,,,}は基底をなす
A関数to関数の自己共役演算子の固有関数は基底を成し、直交する

という二つの事実を挙げ、残りの議論をこの下で行う。すると、この議論の不正確な部分が全てこの始めの主張に集約される。

十分な知識を持っていてこの議論の曖昧な点が気になるような人間には、すぐさま、この始めの二つの主張が、積分を関数解析の理論が適用可能な形で(つまりルベーグ積分)定義し関数空間を(通常の内積、ノルムの入った)L2空間にとる、という宣言であることが明確に分かる。ここで作った固有関数系で作れない関数が現れた場合(そしてそれは容易に現れるのだが)、それがL2空間の元ではないためにこの議論で問題が生じるのだという事が直ちに了承される。

そして、通常の微積分程度の知識しかない場合にも、@、Aを認めてしまう限り、それ以降の議論は完全に初等的で明瞭である。特に直交性が示すべき定理ではない当然の事実となる。もちろん、@はともかくとしてAは関数解析において見出される特徴的な主張で(直交行列とのアナロジーはあるにしても)余り自明でない、少し唐突な感じのする主張だし、関数の作る線形空間とかそこでの内積とかはそれほど初等的な話ではない。しかし、この種の関数空間と自己共役演算子のラフな扱いは、それが全く初等的でないにも関わらず、物理学では波動関数に基づく量子力学で十分に慣れ親しまれているのであり、受け入れ易いものだ。

このように、ある一定のバックグラウンドを持った人々の間では容易に受け入れられるようなラフな議論で、かつ、厳密化も容易/厳密でない点がどこにあるのかが一目瞭然であるというのは、僕の基準では「良い説明」の一つだ。いつもいつも厳密に行えば良いというものではない。むしろそれは(特に物理では)真の理解とは言えない。しかし、いざという時に厳密にできないのではその説明に意味がない。


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