Rukeの日記
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2004/10/11(月) ゾクゾク
このような第一原理的法則のf(s)は数学的にはsの時間微分に一致するから
ds/dT=f(s)
という形に書かれるのが普通だ。しかし、この種の法則が状態を時間発展させるメカニズムを背後に想定している事を考えれば
s(T+ΔT)〜s(T)+f(s(T))ΔT
Δs〜f(s)ΔT
ds=f(s)dT
等と書くほうがこの視点が表立つ。

さて、例えばニュートン力学では状態をs=(x1,v1,x2,v2,,,)と記述し、第一原理は
ds/dT=(v1,f1(x1,x2,,,)/m1,v2,f2(x1,x2,,,)/m2,,,)
と書かれる。これは運動方程式と呼ばれる式だ。ここでf1,f2等は力と呼ばれる状態の関数でニュートン力学の形式上はv1,v2等にも依存して良いし、例えば初等的な練習問題でも速度に比例した空気抵抗等は頻繁に現れる。しかしニュートン力学では普通、そのような力も全て詳細に見ればx1,x2,,,だけで説明がつくと考える事が多い。この事は状態はs(x1,x2,,,)だけに見えるのに、これを状態の記述として採用すると決定論的にならないという、ゼノンの矢のパラドクスにまで遡る問題がニュートン力学では形式的にしか解決されていないということであり、その歪さを露わにする意味でもこのように書いた。

重要なことはニュートン力学では力が状態のどんな関数であるかは指定されない。ニュートン自身が万有引力の法則を提出したが、これは全てが重力で説明できるという主張ではなかった。むしろニュートンは重力を遠隔力として少し特別な物と考えた。今では力というものはいくつかの基本的な力の組み合わせであるだろうと考えられているが、運動の基本法則のこの表現はそのまま残っている。その理由はいくつかあるが大きな物は、世界全体に対する法則は使い物にならないということだろう。つまり、我々の世界はあるメカニズムを内在していて様様に時間変化するのであるが、この世界の内部にあるあれこれの組み合わせとしての独特のメカニズムを内包した独立した世界を考えることができ、運動方程式はそれをも記述できるということだ。

#部分系を完全に世界全体から切り離すことはできないから、ここでもまた連続性が重要な役割を果たしている。

ところが運動方程式がこのように「力」という未定部分を残しているためにこの法則は世界の作り方の処方箋という少し大それた意味を持つことになる。つまり世界を作る上で創造主が決定しなければいけないことは力という状態の関数であり、その上で運動方程式に従って系を時間発展させるメカニズムを造ればよい。

さて、今度は量子論だ。量子論において状態空間とは一つのヒルベルト空間であり、状態はその一つの元(状態ベクトルと呼ばれる)。その詳細は省くが、とにかくその時間発展はシュレディンガー方程式
i h dψ/dt=H(ψ) (hはプランク定数/2π)
で記述される。ここでもハミルトニアンと呼ばれるHは指定されない。量子論が主張するHに対する唯一の制限はこれが自己共役であるということだ。左辺にあるi,hは単なる定数であり、H'(ψ)=H(ψ)/ihとでも定義すれば
dψ/dt=H'(ψ)
となる。もちろんHに対する制限はH'に対する主張としても書くことができるのであるが、量子論では自己共役と呼ばれる性質は基本的な役割を果たすため、H'の中の自己共役な部分だけを特に抜き出すためにiが外に出ているに過ぎず、またhについては古典論との対応を見やすくするという目的があるが、つまりは歴史的なもので量子論の理論形式上は必要ない。こうして見ると、決定論的でないという事が殊更に強調される量子論であるが、実は物理学史上最も決定論らしい決定論である事がわかるだろう。

ここでもシュレディンガー方程式は世界を作る手続きを与えてくれる。すなわち量子論に従う世界を作るとは、
1.ヒルベルト空間の決定
2.Hの決定
3.Hに従って時間発展するメカニズムを造る

この種の基本法則が物理学者に要求する研究の方針はその未定部分、すなわちfやヒルベルト空間、Hの決定である。物理学の一つの究極の夢は完全なfの決定であり、究極のヒルベルト空間と究極のHを得ることだ。しかし、これらの基本法則が大きな未定部分を持っているためにもう少し柔軟な行為が許される。すなわち、例えばニュートン力学ならば対象とする系の状態をいくつかの代表的、あるいは仮想的なx,vで近似的に記述し、その時間発展を何らかの力fで説明することで現象の理解に繋げようとすることだ。これはモデル化と呼ばれる。

さて、このように世界の作り方を与えてくれる第一原理は、やはり他の法則同様問題解決のための一般的手法を与えてくれるわけではない。つまりこの法則の最も直接的な使い方は世界を実際に作ってみることだ。これは第一原理がメカニズムそのものだからそれを踏襲すればよいように思えるが、瞬間とその直後というものを我々が扱えないために完全な世界の創造は難しい(あるいは世界自身の力を借りる方法がある。これは実験という行為そのものだ)。しかしながら
s(T+ΔT)=s(T)+f(s(T))ΔT
を世界の模倣としての我々のメカニズムとして採用することができるだろう(ds/dT=f(s)という式は微分方程式と呼ばれる方程式でありきちんとした数学的議論により導かれるもっとまともな近似法がいくつもある。ここに示した方法はオイラー法と呼ばれ、微分方程式の近似計算としては最も愚直で性能の悪い方法だが、ここでは時間発展のメカニズムを強く意識したいのと、近似の詳細はどうでもよいのでこうしておく。)。
つまり、s(T)があってそのΔT後の状態を知るにはf(s(T))ΔTをs(T)に足してやればよい。それを次々と繰り返すことで我々の世界は駆動される。


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