マガッタ玉日記
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2008/08/24(日) 『#65 ASIA 〜 パキスタン』
『小リッチ』    819 ラワールピンディ


「信頼」があるってのは大切なことで。
「あの人は信頼が置ける人だ」
僕もそう言われるような大人になってみたい。
「タイム イズ マネー」
時は金なり。
いくら時間に余裕がある旅行者たちだっていつ来るかも分からんバスをひたすら待つのは嫌ってもんだ。

***********

パキスタンのバスは平気で2,3時間遅れてやってくる。
インドのバスは一日遅れてやってくる。
だからパキスタンのバスが正確に走り、正確に到着するってのは珍しい。
とかなんとか。
長旅中の小リッチってのは本当に小さいリッチなんだな、
今日はそんな話で。

***********

ペシャワールの南東、「ラワールピンディ」へ行く移動方法はいくつかある。
バス会社もさまざまあれば、鉄道だって通っている。
「まあ、ここでいいか」
僕はペシャワール市内の地図を広げ、今泊まっている宿から一番近いバスステーションの名前を覚えると、三輪タクシー「リクシャー」をつかまえた。
「SAMMI DAEWOOってとこまで」
交渉が終わると、リクシャーは喧騒の町を走り出した。
今日もクラクションがやかましい。

やがてついた「サンミダーウ」というところはどうやらバスステーションの名前ではないようだった。
サンミダーウという名のバス会社兼バススタンドだった。
まあなんでもいい。
ラワールピンディにさえつければどのバス会社だっていい。
「ピンディまでいくらですか?」
そう思っていたら、この会社は今まで乗ってきたボロバスとは少し毛色が違っていた。
ペシャワールからピンディーまで2時間半の道のりで300ルピー(≒450円)するという。
これは他社の倍近い値段に相当する。
「…今から違うバス停いくのも面倒くさいし、まあいいか、今日は小リッチに」
ほんの少しの小リッチに浮き足立った心で乗るサンミダーウバスのシートはフカフカだった。
そして車内にはエアコンが効いている。
「…おお」
久しぶりのエアコンにすぐにサブイボが立ち始めた。
バス内には美人バスガイドが乗り込んでいる。
ただ道を走るだけなのになにを観光させようというのか。
出発前には犯罪防止のためか、乗客一人一人の顔をビデオカメラに収めていく。
慣れない状況につい鼻が膨らんでしまう。
そして満を持してエンジン音が車内に鳴り響く。
「…まさか」
腕時計を覗き込んでいると、バスは定刻11時に出発した。
もうこれだけで笑顔が出てしまった。
快適な2時間半のバス旅が始まると、美人バスガイドは丁寧な箱に入ったお菓子とコーラを全ての乗客に渡し始めた。
「すっげー至れり尽くせり…」
記念にお菓子の箱を写真に収める。
よく効いたエアコンのせいで冷えすぎた体をさすりながら僕はポテトチップスをバリバリと頬張った。
もう寒くて寒くてサブイボが止まらない。
いい加減上着を着ればいいのに、なんとか冷やし溜めをしようとしてしまう。
もっと寒く、もっと寒く、もっと寒くだ。

「…あっっづい」
2時間半の夢はすぐに終わった。
ラワールピンディのバス停は今まで感じたことがないくらいに暑かった。
到着時間は遅れてくれてもいいものを。
何を思ってももうそこにエアコンはない。

大都会ラワールピンディ。
一度吸った甘い汁はそうすぐには忘れられない。
「…せっかくだし、今日だけは」
都会の象徴、外資系の台頭「ファーストフード店」の前で僕は唾を飲み込んでいた。
この町には、この町には「ケンタッキーフライドチキン」がある。
あのケンタッキーが開いてる。
「………」
僕は再びエアコンの効いた店内に入ると、散々悩んだ末、食べ慣れたあの味、フライドチキンに食いついた。
長く日本を離れると、美味い飯よりも懐かしい味が恋しくなる。
たとえばこのチキンの味はどうだ。

読んで字のごとく、僕懐かしい味を骨の髄までしゃぶり続けた。

もうしばらくここからは出られなさそうだ。


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