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2008/08/16(土)
『#59 ASIA 〜 パキスタン』
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『野次馬の心』 8/13 ブンブレット谷
ルンブール谷、ブンブレット谷、ビリール谷。 「カラーシャ族」はこの3つの谷に昔から住んでいる。 車で行けば1時間程度の3つの谷、それでもその雰囲気はそれぞれ少し違う。 たとえば「ブンブレット谷」はカラーシャ谷の首都で、坂道の一本道にはゲストハウスやホテルが並び、ギリシャNGO団体の援助で建てられた立派な建築物が目立っている。 そして何よりほかの谷と違うのはカラーシャ族の姿があまり見られないことで。 もちろんいることにはいる。 でも、次第に住みよくなってきたこの土地にムスリムの人たちが次々と移民してきた。 「あ、これは面白い絵なんだろうな」 ほっかむりで髪まで隠した地味なムスリムの女の子と、派手な衣装で着飾ったカラーシャ族の女の子が仲良く山で遊んでいるのが見れる。 とかなんとか。 先進国の援助でカラーシャ谷の一つが一気に変貌した。 おかげで人は住みやすくなり、民族の色は薄くなった。 そんな姿をみてみたい野次馬が一人、今日ブンブレット谷に移ってきた。
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昼過ぎ、僕はバックパックを担ぐと山道を下り始めた。 ここから「ブンブレット谷」までは歩いて、推定4時間半。 「まあ、大丈夫だしょ」 最初のうちは下りばかりが続き、運ぶ足にも力が漲る。 よし、この調子で下り続けよう。 爽快な山道は強い日差しを抜いて考えれば、なかなか面白い。 たかが3,4時間のトレッキングでもやっぱり苦労して歩いていくのと、ひょいと車で行くのとでは意味が違う。 僕は1時間ほど鼻歌交じりに歩き続けた。 やがて…はあはあ…はあはあ…はあはあ。 さあ、ここからだ。 1時間を過ぎたあたりから体は疲れ始める。 と、そこに一台のジープが通りかかり「乗るかい?」と声をかけてきた。 「いや、僕は最後まで自分の足で歩いていきたいんで」 そんな言葉はそっと奥にしまい込んで、僕はジープに揺られた。 ものの30分。 あっけなくジープはブンブレット谷につくと、また白い土埃をあげて走り去っていった。 「…ここがブンブレットか」 ギリシャNGOの援助で暮らしやすくなったというブンブレット谷は予想の範囲内だった。 改宗者やイスラム植民者の姿は目立つが、全然のんびりとしている。 「…あ、そんなもんか」 確かにゲストハウスの数や店の数はルンブールに比べて桁違いに多い。 でも「NGO」「援助」「変貌」という言葉から連想していた忙しさは見られない。 なんだかほっとしたような、期待外れのような気持ちで僕は町を歩く。 「…やっぱここは都会だわ」 どこかでそう言いたい自分がいたのに。 「…やっぱ先進国が入るとなあ」 そう野次りたい自分がいたのに。 旅行者の心なんてのは本当無責任なもんで。 ルンブールとブンブレットを比較して、この文章の巻末はこう締めくくりたかったのに。 「こういうところに先進した姿が見られる」 でも残念ながら、ここは十分のんびりしている。 と、あるホテルの従業員に声をかけられた。 「お茶飲んできな!」 結局ブンブレットの人たちも変わらず穏やかでいい人たちだった。 そう思ってお邪魔すると、彼らは突然高圧的な物言いになった。 「お前の今泊まってるゲストハウスはダメだ!汚い!高い!飯がまずい!うちに来い!」 突然の荒っぽい客引きに僕は引いてしまう。 「…いやいい所だと思うよ」 そう言っても彼らは嵐のように僕の泊まっているゲストハウスを罵倒し続ける。 彼らの目的はただ一つ。 自分のゲストハウスに泊まってもらいたい。 そこで僕は「…やっぱりか」と思う。 ほんの小さなことなんである。 こういうところに少し先進した姿が見られる。
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