マガッタ玉日記
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2008/08/14(木) 『#57 ASIA 〜 パキスタン』
『ゆとり老人』          8/11 ルンブール谷



カラーシャ谷の朝は穏やかだった。
山の斜面に段々に建てられたカラーシャの家は、一番麓にある僕の部屋からよく見えた。
カラーシャの箱型の家の天井は平らで歩けるようになっている。
それが段々に続いているので、村人たちは人の家の天井を階段のように歩いていく。
とくに隠すこともない村の生活は開けっ広げで、あくびをしながら眺めるその光景はなんだかとても穏やかに映った。
庭からはおいしそうな朝食の煙が立ち上っている。
その周りを素っ裸の少年とひよこが駆け回っている。
小川の周りでは洗濯をする母に子がまとわりついている。
「ああ、いいなー」
そんな空気に包まれて生活していると、僕にも多少変化が訪れた。
まあ、なにがどう変わるということでもない。
ただ道を歩く速度が少しゆっくりになったり、気がつくと後ろ手を組んでいたり、乾いた洗濯物をわざわざ3回に分けて取りにいったり、緑をじっくり眺めていたりするくらいだ。
と僕はそこで誰かに似ているな、と思う。
誰かの生活スタイルによく似ている。
ああ、そうか。
老人の余生か。
この時間の流れ方はきっと「老人時間」ってやつなのかもしれない。
日々の生活の中に「老人時間」が入ると、なんとも一日ってのはゆっくり流れ始める。
なかなか老人時間が掴めない僕は、たまに一つ一つの動きを意識的にゆっくりやってみる。
「頭をかく」
反射的に動いてきたこの行動をいつもと違うスピードでやってみる。
「……!」
これが意外と心地良い。
今なら道端の石に日長一日座ってるじいちゃんばあちゃんの気持ちが少し分かる。
「一日あんな所にいて何考えてんだろう。暇じゃないのかね」
そう思っていたあの頃への疑問に「何も考えてないのかもよ」と答えてあげたい。
じいちゃんばあちゃんは「暇」かどうかなんてのを考えていない気がする。
無我の境地。
ただぼけーっとするってのは本当にボケてない限りすごい事かも知れない。
彼らの薄れた眼には若者なんかにゃ見えない何かが見えているのかもしれない。
「…いいな、それ」
僕もそんな老人になれるだろうか。
日長一日日向ぼっこに費やすようなボケ老人に。
80の僕よ、そっちはもう日長ぼっこを始めてるか。
まだなら今日がその日かもしれないぜ。


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