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2008/07/31(木)
『#44 ASIA 〜 中国』
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『パキスタンの鼻の先』 7/30 タシュクルガン
「…あ、寝坊した」 慌てて放っぽってた荷物をバックパックに詰め込むと、僕はカシュガル国際バスターミナルに向かった。 「パ、パキスタン行きのチケット下さい!」 焦ってそう言うと、「まだ開いてないでしょ」とチケットカウンターの女性に冷たくあしらわれた。 バス停は閑散としている。 カウンター上の時計を見ると7時30分。 僕の腕時計は10時30分を指していた。 「…あ、そうか」 これも時差ボケというのか。 度重なる国境越え、何度も日付変更線を行ったり来たりとしているうちに、僕の時計はすっかりボケていた。 「パキスタンルピーに交換しないか?」 暇つぶしに近寄ってくる闇両替屋と換える気のない交渉をしながらゆっくり3時間待つと、ミニバスはカシュガルを離れていった。
僕は今日、このバスでまずは中国側の国境「タシュクルガン」に向かう。 そこで一泊したら、明日パキスタン領に入る。 つまり明日から「南アジア」に入る。 パキスタン、インド、ネパール、バングラディッシュ、うまくいけばスリランカなんかにも足を伸ばしてみたい。
「…え…え…わ…おお」 中央アジアの2ヶ月で山にはもう飽きた、そう思っていたのに僕はまた溜め息を漏らしていた。 壁のように立ちはだかる山を見上げ、雲かと思っていた雪に瞳孔が開かれる。 草原にある遊牧民の移動式住居ボズユイを眺めていると、岩山が現れ、それは突然砂丘に変わる。 砂丘が終わると今度は干潟のような浅い水源地帯が広がり、続いて静かな湖と山岳氷河が広がり始めた。 「な、なんだなんだ!」 ただの国境越えのつもりが、次々と様変わりする山の光景に僕はただ呆然と口を開けた。 「この湖がカラクリ湖だよ」 隣に座っていた陽気なパキスタン人がそう教えてくれた。 これがカラクリ湖か。 なんの情報も集めないまま来てしまったが、名前だけは何度か聞いたことがある。 そこは標高高く静かで、広く澄んだ湖が7000m級の山々をすっかり写していた。 「そして明日通るのがカラコルムハイウェイだよ」 カラコルムハイウェイ。 「………」 まずい。 このままじゃまずい。 このままじゃ「パミールハイウェイ」が薄れていく。 6日間で$250と大金叩いていったのに、このままじゃパミールハイウェイよりカラコルムハイウェイの方が印象濃く残ってしまう。 いや、たった一泊二日470元(≒3320円)の旅じゃないか。 そう大したはずがない。 パミールよりもいいもんか。 僕は布団に入る。 まずい。 胸がワクワクしてきた。 やっぱり明日が待ち遠しい。 どんな景色が広がるんだろう。
パキスタンの鼻の先で、僕はムズムズと眠った。
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