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2008/07/29(火)
『#42 ASIA 〜 越境』
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『屁みたいなテロ』 7/28 バス
西日になり始めた夕方6時、ようやく僕は中国側の国境「イルケシュタム」を抜けた。 これで僕たちはこの国境付近だけで4時間以上待たされていたことになる。 先に通過していた数人はまだ来ないバスに待ちくたびれている。 皆と少し距離を置き座り込むと、僕は眉間に皺をつけて考えた。 「…これは一体どういうことだ」 北京オリンピック直前で緊張した国境間は検問の連続で、その度に僕らは眠い目を何度もこすり、何度もバスを降ろされた。 「これはなんだ!」 「これも開けろ!」 もう何度目だよ。 もういい加減嫌になってきた。 それでも洗いざらいチェックされたはずの荷物をまた一から検問される。 「キレイにいれたってどうせ同じだろ」 隙間なくパッキングしたはずの荷物も、今じゃぐちゃぐちゃにぶち込まれている。 でもいい。 もうそれは慣れてきた。 僕が眉間に皺を寄せてるのはそんな理由じゃない。 屁がとまらないからだ。 ここ数時間、プッププップきりがない。 僕は今や種だけになった袋を見つめ呟く。 この野郎。 このアンズ野郎。 アンズに整腸作用があるとは知らなかった。 長時間の移動のおやつとして買い込んだ1sの干しアンズをクチャクチャクチャクチャ食べてるうちに、プッププッププッププップと始まった。 「干しアンズに罪はない」 それでもクチャクチャ食べ続けると、いよいよ全く止まらなくなった。 クチャクチャ プップ 食べては出し、食べては出す。 今ではもうアンズはなくなり、屁だけが後遺症として残った。 だから僕は今、眉間に皺を寄せている。 「…遅いな」 ところで同じバスに乗り合わせたバンジー君とアッチさんの日本人カップルが最後の検問から帰ってこない。 僕のすぐ後ろに並んでたはずなのに、待てども待てども二人はそこから出て来なかった。 「…なにかあったんかな」 いやに心配にんあって国境に戻ろうとした時、二人は無事にやってきた。 それでも二人共浮かない顔をしている。 「…どうしたの?」 バンジー君の右手にあるものを気にしながらそう訊くと、二人は声を落として喋り始めた。 「…中国のガイドブック、破られました」 「…え?なんで?」 「なんか地図に“台湾”が入ってなかったからこれはダメだって」 「…は?何それ?」 「そんなの俺らしらねーよ、って言ったら色々訊かれて結局没収しようとするんで、なんとか必要なページだけうばいとったんですけど、これですよ…」 バンジー君が掲げた数枚の紙はビリビリになっていた。 これじゃまるで必要なページが必要じゃないページみたいだ。 第一、地図に台湾が載ってないのは出版社の問題だし、どう考えてもそれでテロリストの疑いありとはならんだろ。 そう言っても今の中国には通用しない。 そういえばウズベキスタンで、「パキスタン中国間国境」を抜けるとき「FREE TIBET」のステッカーをかばんの奥底にしまっていたら三日間拘束された、という日本人に出会った。 「え、…拘束ってどんなだったんですか?」 「すいません…今はまだ話したくないです」 どうやらこの事件は世界のニュースで流れたという。 それからポツポツと彼が話してくれたことは、とりあえず生まれてからこれまで自分の人生全て、それから親兄弟から遠い親戚の職業まで全て、おおよそ自分にゆかりのある全てを吐かされ続けたとのことだった。 オリンピックを成功させるために、今の中国はそれくらいテロ防止に力を入れている。 これで世界はフェアにスポーツを競い合える。 でも、そこまでして開催するオリンピックに「平和」の文字はあるんだろうか。 僕は眉間に皺を寄せ、小難しいことを考えてる振りをしながら、そーっと屁をたれる。 満席の車内で屁みたいなテロリストは屁を垂れ続けた。 乗客は言う。 「まずはそいつを捕まえろ!」
中国新疆地区「カシュガル」に戻ってきた。
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