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2008/07/24(木)
『#37.5ASIA 〜 タジキスタン』
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『一本道が三本 後編』 7/23 ムルガーブ
次に目を覚ますと、今度は異様な光景だった。 停車したジープの先にはペンキの剥げた白い四角い建物と簡素なゲートだけがある。 その建物の屋上と前、ジープの後ろには男たちが立っている。 男たちはライフル銃を肩にぶら下げ、その顔は目だけの出たマスクですっぽり隠されている。 だからその目だけがぎょろりとこちらを観察している。 「………。」 表情の読めない人間は怖い。 僕の心臓が鳴り出した。 彼らは友好的なのか、それとも非友好的なのか、表情が判らなければ何も分からない。 やがてゲートの前の男たちと話していたドライバーが戻ってきてこう言った。 「ここからムルガーブだ」
バタフジャーンは主に7つの部落、部族に分かれている。 ここがその一つ「ムルガーブ」。
僕たちは指揮官のような一人だけ迷彩服を着た男にパスポートとパーミット(入境許可証)を見せると、ゲートが開けられた。
間もなく見えてきた「ムルガーブ」の町は廃墟のようだった。 どこもひっそりしていてあまり人気が感じられない。 思っていたよりも範囲は広いものの、どの四角い家も朽ち果てている。
やがて一軒の宿を見つけると、適当に町をぶらついてみた。
やがて野ざらしのバザールを見つけた。 「わあ外人だわ」 そこでは女性たちが遠巻きにこちらを眺め、「アッサローム」と挨拶をすると恥ずかしそうに笑う。 「おお、よく来たよく来た」 じいさんは握手を求めてくる。 子供たちはどの町に行っても後ろをついてくる。 またしばらく歩いてみる。 やっぱり四方をゴツゴツした岩ばかりの禿山に覆われ、よく澄んだ浅い川が流れている。 触れるとしびれるほど冷たい。 女たちはその川で洗濯物を洗い、子供たちはびしょびしょに濡れながらはしゃいでいる。 川の周りに出来た貴重な草原にはヤギや牛が放し飼いにされ、山犬は死んだ獣の肉にゴッゴッと食らいついている。 ここまできてやっと僕はその場に座った。 しばらくそのままにいると、肌寒くなってきた。 ウィンドブレーカーのジッパーを首元まであげる。 「あ、ここ富士山より高いんだ」 それより高い山々にここは見下ろされている。
夜になれば山犬だけが吠えている。 一匹が何かの拍子で吠え出すと、二匹、三匹、次々に連鎖して静かな夜がやかましくなる。 僕は宿の外でみのむしみたいに寝袋にくるまって寝っ転がっている。 しばらく空をじっと見ていると、星屑がゆっくりと回っている。 堂々とした天の川が一本道を走っている。 星屑ばかり眺めていてもすぐに飽きるので、とりあえず流れ星を20まで数えてみる。 ところで、もし今こんな格好で誰かに襲われでもしたら僕はみのむし同様手も足も出せない。 サンドバックもいいところだ。 でもまあそんな心配はいらないだろう。 まあ、つまりはこの町でもそう「危険」な空気ってのは感じられないわけで。
ゆっくり朝がやってくる。
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