マガッタ玉日記
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2008/07/21(月) 『#35 ASIA  〜 タジキスタン』
『二つのタジクともう一つの国』 7/21ホールーグ




「ロシア語は喋れますか?装備はちゃんとしていますか?体調はいいですか?いいですか、これだけは忘れないでください。どんなに旅慣れていてもバタフジャーン自治区を中央アジアだと思わないでください。バタフジャーンに入ったらこちら日本大使館としても一切支援、援助は出来ないものだと思って下さい。一応一言だけ、“行くな”。それでは気をつけて行ってきてください」
ガチャンと電話は切られる。
日本大使館にタジキスタンの情報をもらおうと電話をすると、こんなコメントを頂いた。
やがて友昭君と僕を乗せたジープは発進する。

***********

タジキスタンは二つの国に分かれている。
西のタジクと東の山岳バタフジャーン自治区。
この二つ、VISA、国名は一つでも外国人登録、パーミット(入境許可証)は違う。
時計の針を一時間前へ。
これがバタフジャーンのローカルタイム。
流れる時間も違ってる。
「おお、山岳氷河だー!」
バタフジャーン自治区に一歩踏み入れれば、そこから8000m級の山々に見下ろされた「パミールハイウェイ」が始まる。
いつぞや習った世界の屋根、「パミール高原」とはここのことなんで。

***********

まずはタジキスタンの首都「ドゥシャンベ」から、バタフジャーン自治区の西の玄関口「ホールーグ」へ。
ジープはパミールハイウェイを目指して突き進んだ。
始めのうちは舗装された道が続いていた。
「・・・なんだ、大した事ない道じゃん」
余計に緊張した分、すぐに眠気が襲ってくる。

「・・・・・・・・・え」

やがて目を覚ますと、僕たちは荒い山に取り囲まれていた。
ジープは崖を削り取った荒い道に乗り上げている。
下を見下ろせば荒い川、上を見上げれば高い山、腕を見れば鳥肌が立っている。
山に弄ばれて、ジープは岩や陥没を避けながら走り、その度に僕らの体は大きく揺さ振られる。
道幅は狭い。
ところによっては車が2台交差すれば、どちらかは崖の下に行くことになる。
「ちょ、すごい道ですね」
隣でぽんぽん跳ねている友昭君に話し掛けると、当然「・・・すごいですね」と返ってきた。
「本当に峠を攻めてる、って感じだね」
「確かに!」
いや攻めてるのはドライバーだけで僕たちはヒャーヒャーと守り続けるだけだが。
「川、すご、色・・・」
赤。
荒れ狂った急流の河は赤かった。
赤い山の赤い泥が溶けて赤い水が流れて赤い河が流れてる。
どす黒い血のような赤色だった。
突然標高はガンと下がる。
丸みを帯びた石が河原に広がり、なんでかそのいくつかが誰かによって数段積まれてる。
そこに例の赤い河が流れ、「まるで三途の川みたいだ」とイメージさせる。
「綺麗だねー」
でも意外にその絵は綺麗だった。
そこで標高はガンと上がる。
山の断崖からまた山を見下ろす。
いつしか僕たちは無言になって、パミール高原を眺めていた。
やがて山の中に一つの大きなゲートが現れた。
そこには「バタフジャーン」の文字が描かれていた。
「そっか、やっとこっからがパミールハイウェイ本番なのか・・・」
迷彩服に機関銃をもった男たちにパスポートを見せると、僕たちはパミールハイウェイへと入っていった。
打ち捨てられた戦車が狭い山道に放られている。
土埃を被った姿は、この土地の内戦を何も知らない僕たちに衝撃を与える。
やがてジープは停まる。
何事かと外に出ると、道は一つの看板によって封鎖されていた。
そこに中国語で書かれていた文字を読む。
「前方爆破禁止通行・・・え!」
「落石っすか!」
「すごいっすねー!」
能天気に車に戻ろうとすると、ボンと音がした。
後ろを振り返ると、崖の斜面で土煙が上がっている。
「前方爆破だ…」
それを見て感じるのは「緊張」というよりも爆発というものを知らない僕には「興奮」だった。

空も山も群青に染まり始めた頃、(高い山に遮られて、ここに夕陽はなかった)ドライバーが河の向こうを指差して、僕たちに叫んだ。
「アフガニスタン!」
僕たちはその先をしばらく眺め続ける。
ここから何時間もアフガンとの国境すれすれを走っていく。
さっきまでの山と今の山に違いはない。
それでも「アフガンの山」というだけで何も知らない僕には鈍い思いが走る。
「…アフガンねぇ」
二人、意味なく呟いて、また無言になる。
何も知らない僕は何も知らないまま河の向こうを眺め続けた。
それなりの想いとそれなりの正論を何度か反芻する。
辺りが闇になった頃、冷たい雨が降り始めた。
「どーせ明日にゃ忘れてんだろうなぁ、こういう気持ちは」
雨に打たれながら、僕は野糞をたらす。

深夜2時、僕たちは「ホールーグ」に着いた。


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