マガッタ玉日記
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2008/07/10(木) 『#25 ASIA 〜ウズベキスタン』
『悪くはない夜』             7/11タシュケント




「…やばいなこのままじゃ」
一歩列車内に足を踏み入れると、意識が飛びそうになった。
逃げようにも逃げ場はない。
隣ではあまりの暑さに赤ん坊が泣きわめいている。
母は涙と汗をぬぐいながら、なだめている。
温度も湿度も体験したことのないものだった。
「もう一つ上のランク買っとけば良かったな」
本日、タシュケント発の列車に揺られて、この旅行の最西端「ヒヴァ」を目指した。
「まあ、19時間半だし」
システムも分からぬまま、一番安い席を予約した。
そこに一歩踏み入れると途端に後悔する熱気が僕を迎えてくれた。
席が寝台ではなく座りなのはいい。
でもその席がないのはなんでだろう。
どこぞの家族に占領されていた。
「ここ俺の席でしょ」
いくら言っても動かない。
しまいには僕が怒られているような気がする。
「…なんでよ」
周りの人たちの助けを借りてなんとか詰めてもらうと、次の疑問が沸いてきた。
他の席を見ると3人ずつなのに、どうしてここには5人いるんだろう。
二人のおばちゃんと二人の子供、そして僕。
今は好きな娘とだってくっつきたくないのに、僕は今夜知らないおばちゃんと肌を密着している。
シャツはあっという間に汗まみれになり、今はジーパンも絞れるくらい濡れている。
これは僕の汗か、あなたの汗か。
もうやむを得ない。
意図的に意識を飛ばし、神経を集中させる。
心頭滅却すれば火もまた涼し。
「もう限界」
たまらずに上半身裸になった。
するといくらか開放感がでてくる。
でも、これでより直におばちゃんの肌を感じることになる。
でももう濡れたシャツなんか着たくない。
どうすればいい。
「おばちゃん、ここは僕の席だからもうちょっとそっちに行ってくれないか」
ロシア語を勉強してくればよかった。
「んん、成す術なしか」
と、上を仰ぎ見るとそこには荷物棚があった。
当然荷物が乗せられているが、まだ余裕がある。
「………」
人の荷物を端に寄せると、僕は棚の上によじ登った。
家族がこっちを見て笑っている。
それに僕は得意な笑顔を返す。
「うん、これで寝台だ」
暑さにあえぎながら、目を閉じると思いのほか居心地は悪くない。

「あれ、けっこう長いこと寝てたんだな」
起きてみるとみんなの寝息が聞こえてくる。
夜になり暑さはかなり和らいでいる。
下へ降りてみると、座席は完全に占領されていた。
「まあ、もう棚の上でいいか」
外の景色でも眺めようとマグカップにコーヒーの粉をぶち込み、熱湯を注ぐと、連結部に移動した。
タバコに火をつける。
「…うまい!」
黒い地平線の上には北斗七星とオリオン座が貼り付けられている。
あとは何も見えない。
「まあ、やっぱ列車の移動は悪くはないな」
すがすがしい気分で席に戻ってみると家族の一人の姿が見えない。
少年、少年はどこに行った。
やっぱりわざわざ僕がつくった棚席で気持ち良さそうに寝息を立てている。
「…可愛い寝顔だな」
本当の感情はぐっと押し込めて、連結部で眠ることにした。


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