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2008/04/03(木)
『なんだかなあな青春日記』
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ああ、来たな。
静かな住宅街にドッドッドッドッと重低音が響いてきたらそれが合図。 30秒後には部屋のドアが開く。
・・・・・・・・。
ほら。 「うぃーっす、起きてる中ちゃん?」 「起きてんよー、久し振り」 「久し振り」 「んでどうする?」 「・・・うーん」 「せっかくだから桜でも見に行きますか」 とかなんとか。 友達の点けたタバコも消えぬうちにまた重低音を響かせる。 別になんてことはない。 ただ懐かしい感覚だな、そう感じたそんな話。
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「今日あったけーな」 「あったけーな。昼ティシャツでいけたもんな」 甲州街道を真っ直ぐ西へ。 行き先は井の頭公園と上野公園以外のどこか。 友達の車に揺られ、西東京を目指す。 いわゆるドリフト仕様の彼の車は心地良い重低音がする。 内部はよくあるそれと同じで、ブラックライトが灯り、車内を青く照らしている。 「調布の方に野川って大したことない川があんだわ。とりあえずそこ目指してみますか」 「桜あんの?」 「確か」 「いーっす」 昔の記憶が確かなら、河沿いに桜の樹がずらっと並んでいるはずだ。 目的地が決まれば、速度もあがる。 クラッチが踏まれるたびに車体は軽く揺れ、僕らも揺れる。 「何これ?この曲もユーロビートって奴?」 「んだね、一応」 「なんか懐かしい曲だな、聞いたことあるわ。うわ、誰だっけ?」 「・・・あれ、誰だっけ?えっとね」 「ドゥッビドゥッビドッビドゥドゥドゥアイノゥニージョーラァブ、歌えんだよなあ」 「・・・あれ、誰だっけ。ドゥッビドゥッビドゥビドゥドゥ」 「あ、シャンプー!シャンプーじゃね!?」 「あ!ちげーミー&マイだ!」 「あ、そうか!ミー&マイだ!懐かしいなー、静かな曲に替えよーぜ」 「あいよ、何にする?」 「あ、そこ右」 「あいよ」 「あ、そういや赤坂のラジオ聞いてる?」 「オールザットレディオ?前の金曜で終わったのね」 「そうなんだよ。なんだかなあ、だなあ」 「なあ」
高校時分の夜はよく、こんな風に約束もなく集まっては、ふらふらしていた。 いわゆる「溜まり場」って部屋にいけば既に数人がゴロゴロしていて、散歩かサイクリングか、せめて可愛い賭け事なんかをして熱を発散していた。 不良になる勇気も根性もない僕たちは毎日くすぶっていた。 血まみれの殴り合いでもしてみりゃいいけど、そんな勇気は持ち合わせていない。 でもくすぶりっぱなしは嫌だった。 セックス・ドラッグ・ロックンロール。 それは憧れ。 実際は、パチンコ・ビリヤード・サボテン育成。 教室の窓際にサボテンをコレクションして和む毎日だった。
「そういや中ちゃん、俺別れたんだわ」 「・・・え、マジで?あの子?」 「そ、あの子」 「そっかあ」 「そうだあ」 「なんだかなあ、だなあ」 「なんだかなあ、だな」
今は学校が仕事に、自転車が車に、仙台が東京に変わっただけ。 俺ら成長してねえなあ。 なんて青春映画みたいに思いを馳せる。 僕はよく昔の思い出に思いを馳せる。 それは年を食ってきた証拠なんだろうか。 延長だなあ。 「んじゃまた」 「んじゃまた」 相変らずの素っ気ない別れ方。 それがまた懐かしい。
とかなんとか。 今は熱を燃やせる場所がある。 くすぶってはいない。 ただそれだけの話。
4月はよく地元を思い出す。
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