マガッタ玉日記
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2008/04/14(月) 『ありがとう浅見荘101号』
目が覚めると同時に枕元に置いてある携帯を手に取った。

「・・あの、もしもし、中村です・・・あの、実はですね・・・」

僕の場合、大切な用件と面倒臭い用件ってのは大抵寝起きに伝える。
そして大切な用件ってのはいつだって面倒臭い用件で。
「・・はい・・はい・・・そうなんですよ、すいません」
寝惚けてるうちに引っ込みのつかない所に無理矢理立たせ、嫌々事を運ばせる。

今日、家を解約した。

***********

四畳半風呂なしトイレ共同。
これが僕の家、浅見荘101号。
今では「浅見荘」って名前もこじゃれた横文字の「うんちゃらハイツ」に変わったけど、
中も外も何も変わらず昭和の雰囲気をぷんぷんと醸し出している。
ここに越してきたのは6年前。
そう。僕が芝居に携わった年。
「金がない!」
って理由もあったけど、本当はただの勘違いで越してきたんで。
その頃バイトばかりしていた当時の僕はある程度潤っていたけど、芝居ってのを勘違いしていた。
「だって俺さ、芝居始めるんだからあれだべ?四畳半風呂なしトイレ共同に住まなきゃなんないんだべ」
そう思っていた。
夏と冬に怯え続ける、それが芝居人。
そう思っていた。
でももちろんそれは大きな勘違いで。
日本にはもう忍者はいないし、侍もいない。
芝居をやってる人も忍者も侍もみんな普通の家に住んでいる。
でもまあ勘違いしちゃう人ってのは何も僕だけに限らずで、
201号のどっかの研修生は朝昼夜、毎日大声で外郎売とアメージンググレースを歌い続けている。
でも「住めば都」とは本当のことで、気がつけば僕はもう6年ここに住んでいる。
「半年以上日本を離れるんだ。それはさすがにもったいないだろ。・・・解約、しよう」
そう決めた。
でもなかなか大家に電話する気にはなれない。
なんでだろう。
時間が過ぎれば過ぎるほど、大切なことは面倒臭いことに変わってく。
でも、大家には電話出来ない。
理由は。
理由は、なんか寂しいからか。
なんか寂しい。
ここは家賃が安く、余った金を自分の好きなことに使えるという利点がある。
でもそれだけが理由じゃない。
なんか、寂しいんで。
帰国した僕はちゃんとした普通の家を借り、今より不自由なく東京に住んでいる。
それがなんか寂しい。
居心地良いのは居心地悪い。
だから今朝、僕は特別に寝ぼけている隙を見計らって大家に電話した。

「ろ、6月いっぱいで、解約します!」

それから大家との別れを惜しみ、珍しく互いの身の上話をした。
「中村君、頑張んだよ!」
何故か最後には熱く励まされた。
ありがとう。
そして無事、解約の運びとなった。
すると寂しさは更に増す。
ここに住むのもあと2月弱か。
この家の全てが愛しくなってくる。
でも、僕は次に行くんだ。
よし、荷物でもまとめよう。

***********

が。
が、しかしすぐに僕のメール音が鳴った。
宛先は大家だった。
アドレス交換したからって、何も律儀に送ってくる事なんかないのに。
ありがとう。
大家への情が、そのままこの家の情に変わる。
もう泣きそうである。
で、メールの内容は。
「中村君、大家さんです。少し考えたんだけど、中村君が旅に出ている間の半年間さ、家賃1万円ってどう?」


・・・・どう?って。
あなた、どう?って。
俺、もう決めちゃったし。
そりゃ実家に荷物を預けたり、帰国してから新居を見つけたり、また敷金礼金払ったりする面倒は消えるけどさ、どう?って。


ってことで浅見荘での思い出はまだ続く。

でも居ると決めたら不思議なもんで、
この家はなんて安っちいんだと思い出す。
帰国したらまずはここから出て行く準備をしよう。


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