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2008/04/01(火)
『軟弱者にゃ故郷は遠く』
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4月1日。 そうか今日は4月1日か。 1999。 思い出せば馬鹿げているが、あの時僕は本当に必死だった。 故郷を必死で探してた。 ぬくぬく温室で育った軟弱者にゃ「東京」ってのは本当に広くて怖かったんだ。
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「んじゃ、行ってきます!」 中学高校時代の友達、彼女に見送られ、僕は笑顔で仙台駅を離れていった。 行き先は遠く遠く、東京へ。 ゆっくりと新幹線は走り出す。 友達は一斉にホームを走り出し、新幹線を追いかけた。 彼女は寂しそうな顔でホームにぽつんと立っていた。 僕はタオルを口に詰っ込み、声が漏れるのを必死で抑えていた。 それでも嗚咽は止まらなかった。 2時間と少し、ただただ泣きじゃくっていたら、そこはもう東京だった。 近い。 「ひっく、ひっく、も、もう、東京だ、もうきちまった」 泣きすぎたせいでいつまでたってもしゃっくりが止まらない。 「ひっく、わ、わけわかんない、け、京王線ってひっく、どこだよ、わけわかんない、ここは、どこだよー?」 東京駅。 ついさっき感動の別れをしたばかりなのに、すぐに地元の友達に電話した。 「ね、ねえ、佐久間ぁ、ひっくおりぇ、ひっくおれぇ、今どこにいるんだよー?分かんないよー」 佐久間は18にして二度も東京に来たことがあるわが町随一の東京通だった。 「え?え?何?泣いてんの?え?周りに人いっぱいいるでしょ?優しそうな人探して道聞いてごらん」 「ひっ、い、いっぱいいすぎてわかりゃないよー」 「え?じゃあ中ちゃん、看板見て看板。上の方に電車の名前書いてあるでしょ?」 「う、うん。ひっく、ある、さすが、ひっく、佐久間」 「じゃあそれに従って歩いていきなよ。中ちゃん、京・王・線ね、上に書いてあるはずだから」 「あ、あ、ありがとひっく、佐久間、本当、ひっく、ありがとー」 「え、うん。中ちゃん、頑張んだよ!」 「あ、あった、京・王・線あった、佐久間あったよ!」 「中ちゃん声おっきいよ。各・駅・停・車に乗んだよ」 「うん、ひっく、各・駅・停・車に乗る。家ついたら、ま、また、電話するからひっく」
なんで東京なんてきちまったんだ。 誰に頼まれたわけでもないのになんでお前は東京きちまったんだ。 上京早々、深く後悔した。 でもこうなることは予想していた。 だから僕は4月1日に上京することにした。 「あはは、すべて嘘だよ!エイプリルフールだよ!!」 みんなが冷たい目で見ようとも、みんなが笑わなくてもそう言えるからこの日に上京した。
「舞浜ぁ、次は舞浜ぁ、です」 涙もしゃっくりも止まりかけた頃、僕は電車を降りた。 そしてまた佐久間に電話した。
「さ、佐久間、な、なんでだよー、俺、ディズニーランドにきちゃったよー、ここは、どこだよー、舞浜ってなにー、なんで、調布市はどこ?布田駅ってどこにあんだよー?」 「中ちゃん、なんでそんなとこいんの?舞浜って千葉だよ。そこもう東京じゃないよ。あのさ。中ちゃんあのさ、聞いて、ちゃんと京王線乗った?」 「の、乗ったよー」 「本当?」 「本当だよー・・・あ。」 「何?」 「いやなんでもない」 「分かった。中ちゃん、東京に詳しい人に電話して聞いてあげるからちょっと待ってて」 「あ、いや。やっぱいい。自分でなんとかしてみるからありがとー」 知らなかった。東京には京王線と京葉線ってのがあるんだ。
それから数ヶ月、少しずつ東京にも慣れてきた。 心配してたまに電話をかけてくる佐久間に僕は最新の東京を得意になって教えてあげた。 「なあ、知ってっか?調布市と田園調布は違うんだぞ」
東京ってのはほんとにややこしい。
そんなこんなで今日は4月1日。 上京10年目に差し掛かった。
最近じゃ旅行から帰ってくる度に思うことがある。 東京も故郷になりつつある。 コンビニにほっとするようになった。 だいぶ懐かしい街になってきた。
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