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2008/12/29(月)
『鍋を囲んで』
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東京に帰ると僕は長期間放っとかれた部屋の窓を全部開け放った。 ここはばあちゃん家の布団の匂いがする。 そうか。 ばあちゃん家の布団の匂いってのはカビの匂いだったんだ。 久しぶりに使われる布団は少なからずカビの匂いがする。 で、僕はしばらく窓の先を眺めた。 こんなに分かりやすい変化があるだろうか。 僕の大好きだった向かいの空き地にはこの半年でマンションが建っていた。 雑草が生い茂っていたはずの場所にはコンクリートの建物が建っている。 これでもう6月が来てもヤモリもカマキリも現れない。 カビ臭い枕と旅用下着を洗濯機に突っ込むと、缶コーヒーを買いに出た。 思ったよりも東京は寒くなかった。 上海の寒さに比べればなんてことはない。 100円で買える自販機まで歩き、飲み慣れたアサヒのホット缶コーヒーを一本買う。 もともと錆びれた雰囲気のある町並みにはこれといって変化がなかった。 プルタブを開け、テレビをつけ、煙草に火をつける。 とくに何を考えるでもなく、年末特番を何時間も眺めているといつの間にか僕は眠っていた。 起きると辺りはすっかり暗くなっていた。 埃のこびりついた自転車の鍵は錆びている。 うつろ覚えだった番号に合わせ、錆をはがすように引っこ抜くと駅に向かった。 それから電車に乗り、伊藤家に向かう。 僕はこの半年で何があったか、どんな面白い経験をしてきたかを思い出しながら伊藤家を目指す。 ああ、こんなことがあった。 ああ、そんなことがあった。 扉を開けると、湯気が立っていた。 久しぶりの鍋料理。 そこにグラスが5つ並んでいる。 伊藤摩美、ヘロヘロQカムパニーの那珂村タカコ、劇団S.A.Rの山主晃一、劇団Co:Co:aの森山光治良、 久しぶりにあったタカちゃんや山主君や森山が帰国を祝ってくれた。 嬉しい、というよりも照れ臭い。 みんなに久しぶりに会うのはどこか照れ臭かった。 さて、どの話をしよう。 でも別にみんな、僕の話をよく聞くわけではなかった。 海外話よりも最近山主君がハマっているという「仏像」についての話がメインだった。 わざわざ教則本を持ち出してまで仏像講座は開かれた。
今日ぼくは、東京に帰ってきた。
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