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2008/01/19(土)
『27CHINA #7』
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『#7 欲情的浴場』 (黄山)
「仰向けで寝て」
そこにはステンレス製のベッドが置いてあった。 僕は真っ裸だった。 相手はそれを見ている。 真っ裸で寝ているところをじっと見られるというのは変な気分だ。 湯気のせいか、眼鏡を外したせいか、見つめた天井はぼんやりとしている。 天井は、高い。 蛍光灯は明るい。 やけに明るかった。 その明るさのせいで、僕の隅々まで見られているみたいだった。 僕は目を閉じると相手に全てを委ねることにした。
「・・・どう?」 「・・・ああ・・・きもちいい」
首、腕、指、胸、腹、ペニス、足、全身余すところなく触れられる。 不思議と恥ずかしくはない。 僕にはそういった羞恥心が足りないのかも知れない。 しばらくの間、僕は体中をまさぐられ続けた。
***********
山の近くにあるはずだった「温泉」は休業中だった。 町の人の話によれば、オフシーズンにあたる今は改装修理をしているそうだ。
「・・・しょうがないか」
山から下りてくると、僕は町の外れに向かった。 確か昨日町をぶらついていた時、町の外れで「温泉」という看板を見た気がするのだ。 もしかしたらそこでも浸かることが出来るのかもしれない。 その建物の手前で街灯は急にもの淋しくなった。 そこから先には建物もなく、まるで町から隔離されているように建っている「陽光休閑会所」、そこには確かに「温泉」の文字があった。 赤、青、黄、緑。ネオンがチカチカと輝いている。
キィ・・・・
ドアを開けると店員の眼が一斉にこちらに向いた。
「・・・ニ、ニィハオ?」 「ニィハオ」
男が3人に女が4人、 7人の店員は揃って微笑んだ。
「ここ、温泉ですか?」 「そうよ」 「・・・いくら、ですか?」 「30元よ」
丁寧に対応してくれた綺麗な女性もスーツを着込んだ青年も微笑んでいる。 ・・・温泉って、こんなにお洒落なところだっけ? 他の店に比べてここは特別綺麗な店だった。 でもまあ30元(≒450円)ならなんでもいいや、 鍵を受け取ると、更衣室に向かう。
「・・・ん?何?」
更衣室に入るとサテン地のゆるい服を着た少年が微笑みかけてきた。 「店員さん?」 特に気にせず、ロッカーを開ける。 「ちがうちがう、こう使うんだよ」 開け方が分からずもたもたしていると、その少年が鍵の使い方を教えてくれた。 綺麗な顔立ちの少年だった。 「ありがと」 「うん」 彼は笑顔で去っていく。 しかし服を脱ぎだすと、彼はまた戻ってきた。 ロッカーの影からちらちらとこちらを覗いている。 ん?なんだ?俺の裸がみたいのかな。 サービス精神旺盛な僕は勢いよくパンツを引き下げた。 どうだ! 少年は微笑んでいる。
「ああ、気っ持ちええわあ」
一日の疲れを取り、一日の汚れを落とす。 シャワーを浴びていると、今度は背後に人の気配を感じた。 びくっと振り返ると、そこにはさっきの少年が立っていた。
「・・・どうしたの?」
少年は意を決したのか、喋りかけてきた。
「○▽■*○▽■*」
何を言ってるのか分からない。 それから少年はしばらくの間、隣に座っていた。 なんとなくいい奴そうだなあ。 と、後ろのベッドのようなものに太ったおっさんが寝転がった。 そこに痩せ細ったおっさんが来ると、太ったおっさんの身体を洗い始める。
あ! ・・・垢すり? そうか、少年は僕に垢すりやらない?と聞いていたのか! そうジェスチャーすると少年は「そうそう」とうなずいた。 「いくら?」と聞くと今度は指でバッテンをつくった。 「ん?いや、あのおっさんやってるやつ、いくら?」 やっぱりバッテンをつくる。 んん、意味が分からない。 やっぱりいいやと風呂に浸かると、杭州で出会った日本人が話していた事を思い出した。 「中国でバッテンは10って意味なんだよ」 なるほど垢すりが10元(≒150円)か。 「ごめん、やっぱお願い!」
少年は丁寧に洗ってくれる。 指の一本から玉の裏まで丁寧に洗ってくれる。 まさか玉の裏を人に洗ってもらうことになるとは思わなかったが、 郷に入りては郷に従え、僕はなされるがままマグロ男と化す。
「謝謝」
と今度は少年と同じてらてらと光るサテンの服を渡してきた。 そして二階を指差す。 きっと「二階の休憩室でゆっくりしていきなよ」とでも言っているんだろう。 ここは好意に甘えよう。 「そこ煙草吸える?」と聞くと少年はうんうんと笑顔でうなずいた。
「・・・ん?」
二階にあったのは青い部屋だった。 ブラックライト、ベッド、ゆったりした曲。 僕は更衣室に戻り、少年に言った。
「ごめん、お金ないからマッサージはもういいんだよ」
少年はそれが理解できないのか、どうして?という顔で僕を見てくる。 しょうがないので今度は腕時計を指差し、「時間がないから宿に戻らなきゃいけないんだよ」と伝える。 しかし少年には理解できないようだった。 「マッサージはもういいんだよ」 何度もそう伝えると、やがて彼は「ちがうちがう」と笑った。 それから右手でまるをつくり、左手の人差し指をそのまるに突っ込んだ。 左指がピストン運動を繰り返す。 「マッサージじゃなくてこっちだよこっち♪」 無邪気に言う。
・・あ。 そっち? マッサージじゃなくて、そっち? そっちかあ。 あ。 だから少年は玉の裏まで丁寧に洗ってくれたのかあ。 なるほど! っってことはだよ、最初の店員の微笑みは「あんたも好きね」って意味か。 ああ、なるほど。 ようは買春温泉ってやつか。 少年は嬉しそうに「イエスイエス」とうなずく。 少年がせっかくすみずみまで綺麗にしてくれたのだ、ここは恩返しをしよう。 いやいやいや。 「あのね、ごめん、お金ないんだ」 そう伝えると彼は笑顔で右手をすっと出してきた。 僕たちは固い握手を交わし、店をあとにした。 なんの握手だったんだ。
黄山、色々あって楽しい町だった。
僕は明日この旅行最後の街、上海に向う。
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