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2007/09/14(金)
『Dona-Dona』
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早朝、軽快な音が環八で響いた。
パン♪
…あいたぁ。 こりゃ、この音ぁ、パンク音で。 元々中古のバイクだから、タイヤの限界はもうとうに過ぎている。 しょうがない。 でもまだ愛着の湧き切っていない『三代目マルボロ』に僕は憤った。 このやろう、と憤った。 それから押して歩いた。 重いんだよこのやろう。 憤りながら歩いた。 環八をひたすら北へ上がってく。 快晴の東京、汗を噴出しながら、歩いた。 三代目を買ったバイク屋を目指す。 環八と甲州街道の交差する場所。 あそこまで行こう。 直してもらうなら遠いが、あのバイク屋まで行こう。
さっきまでは良い感じだったのに、途端バイクの役割を果たさなくなったバイク。 車道では気持ち良さそうにバイカーたちが通り過ぎる。 僕は流れ出る汗を拭き取る。 なんでパンクなんかしたんだこのやろう。
二代目は鈴の音がした。 どこかの部品が外れてしまい、走るたびにリンリンと二代目は鳴った。 それを真似て三代目の鍵には鈴をつけた。
ぐんと押すと三代目は小さくリ、と鳴く。
2時間、押し続けた。 体中が汗臭い。
バイク屋の社長さんは気持ちの良いおっさんだった。
「なんでわざわざここまで押してきたのー」 「いや、なんとなく意地になってしまって」 「あ、そういえば前乗ってたバイク、どうしてんの?」 「いやあ、うちに置いたままですよー」 「んじゃあとでトラック出してあげるから、無料で処分してあげるよ」 「いいんですか!?」 「せっかくうちで買ってくれたんだから特別ねー」
社長は丁寧に三代目の後輪を交換し、汚れを拭い、汗を垂れ流す。 車をいじってる男ってのは格好良い。
すっかり機嫌を直した三代目を乗せ、トラックは我が家に向かった。 すぐさま、三代目に代わって二代目が積み込まれていく。
目頭が熱くなる。 思わず写真をパシャリ。 そんな僕を見て、バイク屋の兄ちゃんが気をきかせてくれた。
「記念撮影しようか?」
ハイ、チーズ!
カシャッ
ドナドナと去っていく。 さようなら。二代目。
今度、晴れた休みの日には三代目の塗装をしてあげよう。
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