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2007/09/19(水)
『An Ambulance』
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環七を疾走していたら、人が倒れていた。
『え?』
僕は思わず急ブレーキをかける。 と、慌てて引き返す。
やっぱり人が倒れていた。
『兄ちゃん、救急車呼ぼうか?』 僕が着くと同時に近くの酒屋のおやじが僕に言った。 『あ、はい!』 僕は慌てて119番をプッシュする。 酒屋の親父は携帯から漏れる声を聞こうと、顔を近づけてきた。 横目で見やると親父さんの顔はすぐそこにある。 その距離、まるで恋人。 嬉しくない。 目にはランランと野次馬の火が灯っている。 救急隊員の質問に親父は僕の耳元で囁く。 まるでピロートーク。 嬉しくない。
僕 『もしもしすいません・・・はい?』 親父『兄ちゃん、救急』 僕 『救急です・・・はい?』 親父『兄ちゃん、男50前後』 僕 『・・・男性です、50代くらいだと思います・・・はい?』 親父『兄ちゃん、大丈夫』 僕 『外傷はなさそうです、路上に仰向けに倒れてます・・・住所は世田・・・』 親父『兄ちゃん、世田谷の代田2丁目!』 親父、うるさい。 隊員の声が聞き取れない。
救急車を待っている間、野次馬が集まり始めた。 みんな酒屋の親父の知り合いだった。 親父1 『女だったら、起こして家で手当てしてやんのになー』 親父2 『がっはっは、こいつは本当にスケベだからな!兄ちゃん、こいつスケベなんだよー』 親父3 『そういうお前も変わらないだろ!』 親父達『がっはっはっは!』 僕 『そしたら救急車じゃなくて警察よんであげますよ!』 親父達『そりゃいいな!がっはっはっは!』
倒れている人の隣で交わされる会話は、なんとも陽気で。
それにしてもこの倒れている人、見れば見るほどなんてことない。 慌てて電話はしたものの、見れば見るほどただの酔っ払いのような気がする。 なんで車道なんかで眠ってるのかは分からないが、とにかく気持ち良さそうに眠っている。 救急車、もうキャンセルして帰ろうか。
と思っていたら、親父達がふらふらといなくなった。 僕は一人取り残された。 僕は慌ててヘルメットを脱いだ。 道行く人たちの視線が痛かった。 みんな『あいつが轢いたんだぁ』という視線だ。 あんな親父達でも今はそばにいて欲しい。
やがてパーオォパーオォと救急車がやってきた。 と、親父達もぞろぞろと戻ってくる。 3人の隊員が担架を運び、男性を優しく起こす。 救急 『もしもし、もしもし、聞こえますか?聞こえますか?』 男性 『・・・うーーん』 救急 『分かりますか?』 男性 『・・・うーーん』 救急 『自分の名前分かりますか?』 男性 『・・・堀内孝雄』 救急 『堀内さん?堀内さんですね』 一同 『?』 親父2『・・・兄ちゃん、堀内孝雄って有名人だよな?』 僕 『ですよね!』 親父3『アリスだ!アリス!』 一同 『がっはっはっは!』
その後、酔っ払いはふらふらと帰っていった。 僕たちはいそいそと帰っていった。
そんな酔っ払いを助けた秋の夜長。 みなさんいかがお過ごしですか?
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