マガッタ玉日記
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2007/08/29(水) 『序の三、2007夏、山の陣』
シャン・・・シャン・・・シャン
と金剛杖を鳴らして、月を目指す。
深夜1時。
月食も過ぎ、すっかり光を取り戻した月は明るい。

本八合目を過ぎ、僕らは頂上を目指した。
頂の稜線の延長上にはちょうど、丸い月がある。
上を見ながら登っていると月はすぐそこで、頂に着く頃には月に辿り着いているんじゃないかとさえ思う。

『私、月に土地持ってるんだ!』

小さな明かりで足元を照らし、幾分急になった岩だらけの山道を僕らは息せいあがってく。
下から風が吹き上げてくる。
霧も一緒に上がってきた。
と、ついさっきまで見通しのきいた道も途端、靄と化した。
僕ら、雲まみれ。
月の光もあっという間に遮られる。
薄雲がかった月は大きな輪を描き、幻想的だ。
でもあっという間に雲まみれ。
足元明かりだけが青く地面を照らす。
山の天気は変わりやすい。
やがて雨が降り出した。

『俺ら、雲いっぱい吸い込んでんじゃん、そしたら腹の中でも雨って降らないものかね』

10分ほど登っては休み、休んでは登る。
酸素は確実に薄くなっているようで。
携帯酸素の頻度も増してきた。
その度に僕らは休み、下界を見下ろす。
ゆらゆらと揺れる登山者の明かりが列をなしている。
他はもう、雲、雲、雲。
雲ばかり。
雲の中で雷鳴が轟いている。
出来ればそろそろ晴れてはくれないものか。

『お、鳥居がでてきた!』

それをくぐると富士山頂、標高3776mなり。
頂上には意外と早くについていた。
相変らず、厚い雲は空全体を覆っている。
そろそろ晴れてくれないか。
このままでは御来光が見られない。
ここまで来たのに見れなかった、なんて寂しいじゃないか。
日の出までおおよそ2時間。
山の天気は変わりやすい。
ならばそろそろ晴れてくれ。
雲よ、東の空から消えてくれ。
いや、その前にまずはこの風だ。
風よ、止んでくれ。
いや、それよりもまずはこの雨だ。
雨よ、止んでくれ。
そんなことを思いながら、僕らは風のよけられる場所を探し、小さくなった。
寒い。
朝になる頃、僕は風邪を引いているだろう。

1時間ほど眠っていた。
目を覚ますと、人が増えていた。
皆、寒さをこらえ、日の出を待っている。
僕らもそれにならって、東の空に懇願した。
晴れてくれ。
太陽よ、皆が待っているんだぞ。
雲よ、皆が待っているんだぞ。
空よ、皆が待っているんだぞ。
ほら、皆が期待して待ってる。
ほら、あっち側の人たちも身を凍らせながら待っている。

あら、ちょっと待ってよ。
・・・あっち側の人たち?
もう皆の顔が見えているじゃないの。

8月29日、御来光はやってこなかった。

『残念だったねー』

山小屋で温かいコーヒーを一つ頼むと、僕たちは暖をとる。
ああ、温かい。
ああ、ありがたい。
ここにきて、ようやく「山」の秘密めいたあの独特の空気を感じた。


本日、中村崇、富士山、初登頂。
本日、中村崇、富士山、初御来光、はまた来年。

温泉でのんびりすると、僕らは新宿に戻ってきた。
これで東京で月食が綺麗に見えてたら、どうしよう。


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