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2018/09/07(金)
アチャー、顔が青いがな
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確か、あれは後楽園のところで泳いだ帰りであったと思われる。清輝橋まで帰った時に、大学病院の裏に廻ってみようと言うことになった。大学病院のプールは裏手、つまり南側の塀の中にあった。恐らく今考えると岡大医学部のプールではなかったかと思われる。われわれは誰もいない時に偶に泳ぐことができた。このプールには飛び込み台も備え付けられていた。われわれの学校には小学校も、中学校もプールなどなかった時代である。プールで泳ぐというわれわれにとっては得難い喜びであった。その日は晴天であったので、かなりの暑さであったろう。鼻の頭に汗をかきながら自転車をこいでいたに違いない。「おーい、今日はええぞ」と声がする。大学病院の金網の塀など難なく乗り越えられる。われわれは誰もいないプールで思う存分泳ぎを楽しんだ頃、「ケンチャン、あそこから飛び込めるか?」と聞く。下から見上げると、まあ、何とも高い。競技用の飛び込み台であるからそれはそれは高かったのだ。ここでまたわたしの悪い癖が頭を持ち上げた。「おー、大丈夫じゃ。あんなもの。大丈夫じゃ」「ほんならやってみい」「おー」という具合で飛び込み台に上った。フワフワしたのは飛び込み台ではなく、気持ちの方ではなかったかと思われる。台の端まで行き、「おー、行くぞ。ええか」と声をかける。みんなに飛び込むぞということを知らせるというよりは自分を奮い立たせていたのかも知れない。下から「おー、いいぜ」と声がする。そこでバウンドをつけて飛び込んだのだ。すーーーッと落ちてゆく。何とも長い。(えッ、どうしたんだろう?)と顔を上げた時だった。何という音であろうか。バチッという音がした。もうしばらく待っていれば避けられたはずの顔面打ちであった。痛いッと思ったがその時は既に遅しである。「ケンちゃん!鼻血が出ようるがあ」との声を後ろに泳ぎ、プールを上がった。そして、仰向けに寝た。(空ってなんて青いんだ)と思った時、友達が「ケンチャン、顔が真っ青じゃ。大丈夫か?」と聞いた。「あちゃー、顔も青いのだ」と思ったが、わたしは「うん、大丈夫じゃ」と無理矢理微笑んで答えた。恐らく顔は引きつっていたに違いない。何ともカッコウの悪い飛び込み失敗事件であった。
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