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2018/09/04(火)
天狗になったような
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渡し場で泳いでいると舟を漕ぎたくなった。赤銅色に顔が焼けた叔父さんが体をしならせながらゆっくりと舟を漕ぐのだが、見ていてカッコええなあと思った。そこで叔父さんに声をかけた。舟と並んで泳ぎかえって次の客待ちの時間だった。「おっちゃん。舟を漕がしてもらえんかなあ!?」叔父さんは怪訝そうな顔をして、めんどくさそうに「おめえは年はなんぼや?」と聞く。そこでわたしは「小6」と言った。叔父さんは「そうか。小6か。もうちっと小せえかと思うたが、そうかあ、6年生か。まあそれなら教えてやってもええが・・・。おめえやりきる根性あるんかあ?」と聞く。「おお。あるある」叔父さんは「口じゃあみな偉そうにほえるがのお・・・」と言いつつ、半信半疑の様子であった。「おっちゃん、わしゃ、大丈夫じゃ」「そうかあ、まあ、後2,3回往復するから待てるか?」と聞く。「うん、待っとる」こういうことで和船漕ぎを教えてもらうことになった。そして、お客がいなくなった時、叔父さんが手招きをするので走って行ったところ舟に乗れと言う。そして、叔父さんはわたしを乗せて舟を出した。そして言う。「やってみい」そうして、わたしが漕げるように艪の高さを低く調節してくれた。「わしがやるのを見取ったじゃろうが、押して、引くんじゃ。ええのお。行け!」その間にも舟はどんどん流されてゆく。艪を押すとヘソが外れて川へどっつぼ〜んと放り出された。叔父さんは「オイ、早う上がってけえ}と知らん顔だ。舟はどんどん流されてゆく。泳いで追いついて舟に上がると「早うせんと福島まで行くど」と涼しい顔だ。ヘソが外れるのは押して引く時の力のバランスが大切だとわかった。4,5回は川に落ちただろうか。コツが飲み込めた頃、「戻るぜ」の声。「えッつ、わしゃーへとへとじゃあ」と言うと「根性あるかと聞いたらあると言うたろうが。漕げ]と言う。下流へ流された分だけ流れに逆らって漕ぐのだから大変だったが、なんとか元の岸まで戻ることが出来た。すると、叔父さんが「おめえの名前は?明日から暇な時は来てええぞ」と「ああ、はいケンジじゃ。ほんま、ありがとう」と言って帰った。次の日から行くと漕がしてもらえた。すると、東高校へ通うお姉ちゃんが自転車を乗せて渡る時のことだった。「ぼく!ぼくはかわいいのにすごいなあ。舟が漕げるんじゃ。偉いなあ」と誉めてくれた。それからは鼻高々で、天狗になったような気持ちになりお姉ちゃんたちが乗る時間には船着き場に行くようになった。人間,ほめられるとさらに上手くなれるのかも。
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