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2015/09/02(水)
くずをれて伏す
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ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば 声も立てなくくづをれて伏す この一首は日中戦争で大陸に送られた宮柊ニさんが敵を銃剣で刺した瞬間の歌。彼はこの歌を戦闘の最前線で読んだ。 悔悟、痛苦、断腸の思いを胸に秘めて暮らした最前線で戦った人たちの戦後の暮らしは重く、辛く、苦しいものだったと推察される。ぼくの母方の叔父二人は「南方海上にて戦死」が戦死の通知であった。場所の特定ができないことを母はいつまでも悔やんでいた。ソ連領内から必死に逃げ帰った父方の叔父は戦友の墓参りをしたいと来岡し、ぼくが案内をした。恐らく自分の死を意識した最後のお別れだったに違いない。ぼくが戦争のことを尋ねても哀しげな顔をするのみでなんにも話してはくれなかった。生前の父の話によればこの叔父は「陸軍中野学校」に在籍し、スパイとしてソ連領内で活動していたところ終戦を迎えたとのこと。帰国しても国籍がなく、戦後の暮らしは大変だったようだ。 耳を切りしヴァン・ゴッホを思ひ孤独を思ひ 戦争と個人をおもひて眠らず 宮柊ニさんがその後も眠れぬ夜を過ごしていたことがこの歌で窺える。 安倍首相の3400字にのぼる長文の70年談話はこの2首のわずか70文字と比べてなんと浅薄なことだろう。悔悟、痛苦、断腸の思いとの言葉は並べていても。
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