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2006/02/12(日)
それぞれのバレンタイン〜エステル編A〜
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なるべくなら、人目につかぬ場所でこっそりと渡したい。予算の都合上、「義理」が用意出来なかったのもあり、できれば他の職員にも合わずに済ませたい。 (今の時間なら…カテリーナ様の執務室かしら) エステルは音を立てず廊下を歩き、長官執務室前の扉に耳を押し充てた。
「…で、以上ですね」 「あ、待ってアベル」 「ハイ、なんでしょう…え?何ですかコレ…わぁ!ザッハトルテじゃないですか!」 「今ケイトにお茶を持ってこさせるわ、一緒に頂きましょう」 「まさかコレ…カテリーナさんの手作りですか?凄いなぁ…あっ、美味しい!」 「まぁ、アベルったら、ホラ、口元に付いてるわよ」
…エステルは青冷めた。 (何この仲睦まじい展開…しかもアレぜってー手作りなワケねぇ…!) 扉の向こうではアハハでオホホな会話が俄然続行中で、とてもじゃないが割り込んであまつさえ神父だけを呼び出すなんて無理そうだ。イヤ、無理っぽい。つか無理だ。 エステルは大きく溜息を付き、そっと扉から離れた。後ろ髪を引かれる思いでその場を後にし、俯きながらふらふらと彷徨い、いつのまにか広場へ続くエントランスホールまで来ていた。 出入口脇には、広報聖省が備え付けた職員用チョコ受付箱がある。義理だったり直接渡す勇気がなかったりの場合は、この中に入れれば本人に配布される。 エステルは隠していたアベルへのチョコレートを、その箱の中へと押し込んだ。
糸売 く。
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