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2006/12/04(月)
メルマガバックナンバー(06.06.06配信)
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【666,NUMBER OF THE BEAST】
…転寝をしていた人形使いが目を覚ました時、黒衣の男の姿はなかった。 何処へ行ったのかと首を捻れば、なんだ、其処にいるではないか。 陽も落ちたというのに明かりも灯さず、彼は窓辺に腰掛けこちらへ背を向けている。 細葉巻を白い手袋の指に挟み、視線は組まれた足、膝上の本に注がれたまま、美貌の悪魔へ声を掛けた。 「お気楽だね、昼寝とは」 「…読書してる君に言われたくないね、魔術師」 半身を起こした人形使いは、ふとテーブルの上の"其れ"に気付いた。 「何これ、林檎?」 「ああ、剥こうか」 「…君が?」 人形使いの視線に非難の声を上げる事もなく、魔術師は赤い林檎の表面を指でなぞり、薄い口唇を僅かに緩めた。 と、せわしない足音が部屋に近づいて来る。 「アイザック〜」 「…我が君、如何されました」 執事の顔に戻った"最後の魔術師"は、細葉巻を灰皿へ捻込んだ。
下の者は上の者の如く、上の者は下の者の如し…
誰の言葉だったか思い出そうと、人形使いは月に似た果実に口唇を寄せ、月のない夜に独りごちた。
Fin
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これも666連動企画で発行したモノですね。ちなみに"下の者〜"は魔術師ヘルメス・トリスメギストスの「Emerald Tablet」からの引用。
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