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2004/07/16(金)
黒いノラ
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その昔、受け口のあまりかわいくない黒い雑種の野良犬がいた。 なぜだか可愛くないのに、私は妙にその不細工なところが可愛かった。 でも、飼われたことがあるのだろう。どこかに品もあり、人懐こかった。 そいつには仲間もいた。茶色い犬2匹は子分のようだ。
私は黒いノラをよく家に入れたりして可愛がった。 彼は非常に頭がかしこかった。そして、自由を好んだ。 首輪をつけて飼われるなんて嫌う犬だった。プライドを持っていた。
だから私はあえて飼おうともしなかった。 近所からはあまり良くは見られていなかっただろう。 時々家に入れているのは知っていたから。 でも、彼らは人にもほかの飼い犬にも害は与えなかった。
なのに、時々保健所に電話され、捕まえられかけた。 彼らは幾度となく修羅場をくぐりぬけ、逃れた。
本当は野良犬は放置してはいけないけれど、近所の人たちには可愛がられていた。
一回黒いノラが捕まった。 そのときは、自分の家の子です、とわざわざ家族で引き取りに行った。 もう、かわいそうだから飼ってあげましょうという話になり、首輪をつけた。 そしたら、異様なほど嫌がり、あえなく放すことに。
とにかく人間みたいな子で・・。 道でベビーカーに乗せられている赤ちゃんの顔を覗き込み、 優しげな目で見つめたりする子だった。
そんな彼とも別れのときがきた。 保健所には常習犯となり、うそも通用しなくなる。 3匹は捕獲車の前で包囲され、もう終わりか・・とそのとき。 黒いノラはある行動にでた。 二匹の子分が捕まえられそうになったそのとき、 捕獲員にかみつき二匹を逃がせ、自分だけが捕まえられるようにしたのだ。
鮮やかだった。潔かった。 去っていく捕獲車の檻越しに見た、落ち着いた光をたたえた二つの眼が、残像に残る。 彼ほどかしこい犬はいなかった。
私の記憶にいつまでも残る、黒いノラ。
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