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2004/10/12(火)
津軽
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「太宰文学を全否定し認めようとしない文学者,大嫌いだという読者も少なくない.太宰に関しては全否定か全肯定しか許されない.」(『斜陽』解説文より抜粋)
ある物語が自分に訴えかけてくるかどうか,というのは人それぞれだ.
小説を読んだときに,その作品と読者の間に生まれる「共感とか感動というのは,読者のなかに潜在している欲求が刺激されるためだ」,という仮説を立ててみる.
僕はたぶん太宰肯定派だ.とくに『人間失格』はすごい小説だと思う.
太宰文学に描かれている人物は暗い.そして破滅する.しかも独白体の私小説が多い. おそらく,太宰文学が嫌いだという人は,そういう人間の暗さ,退廃性,赤裸々な告白,といったものの価値を認めない人だろう.マイナスの要素を嫌悪し自分から遠ざけ,自分より優れた自分のプラスになるもの を指向する人.実際世の中にはこういう陽性の人が多いだろう.
僕は,『人間失格』はためになるとかではなく,純粋に話として面白いと思う.「自分にはできないことを主人公がやってしまう」感覚が痛快だ. その「自分にはできないこと」というのは,実は読者が潜在的に欲求していることなのではないか.その潜在的欲求は,作品に触れることがなければ一生自覚されず,深層心理の奥底に眠ったままであっただろう.しかし物語を追体験することで,その潜在的欲求が刺激され,「心に深く響いた感じ」として,「感動した」という認識に至るのではないか. 『人間失格』に描かれているのは,非常識だったり,非道徳的だったり,普段の生活ではありえない,恥ずかしいようなことが多い.そのため,なおさら読者にとっては新鮮で,自分の未知の部分に踏み込んでいくような感覚を与えるといえるのではないか.
こういうきわどい作品が文学的に評価され,商業的に成功するということは珍しいように感じる.それだけ世の中には,暗いものを好む物好きが結構いる,ということだろうか.
おまけ: 先日『しあわせな孤独』というデンマーク映画を観ました.レンタルで有ると思うので暇なときに観てみるといいと思います.ベスト恋愛映画ですが,恋人と観るより,一人で観ることをお勧めします.もし観たら感想を教えて下さい
メジャー
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