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2005/06/26(日)
「出口のない海」
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横山秀夫著「出口のない海」。 出版社のコピーは「人間魚雷「回天」海の特攻兵器。脱出装置なし。甲子園の優勝投手・並木浩二は大学入学後、ヒジを故障。新しい変化球の完成に復活をかけていたが、日米開戦を機に、並木の夢は時代にのみ込まれていく。」 神風特攻隊の話はあまりにも有名ですが、海軍にも特攻隊があったということは知りませんでした。魚雷に座席と操縦桿をつけただけという特攻兵器「回天」。主人公並木の挫折、迷い、野球仲間との友情、葛藤、そして迎えた出撃…。 横山秀夫の警察物以外の小説を読んだのはこれが初めてです。結論から言うと、少々物足りない気がしました。並木をはじめ、登場人物の性格が類型的すぎる。並木はあまりにも好青年すぎて物足りないのです。この熱い青年のことを、もっともっと書き込んで欲しかった。 それでも…、死を目前にした並木の迷い、心の叫び。 息子を持つ私は思わず涙してしまいました。
「並木も佐久間も回天隊という紛れもない現実の中にいる。恐い、と一言漏らしたら終わりなのだ。死にたくないと人に縋ったら、もうこの現実の中にいられなくなってしまうのだ。(中略)男なら喜んで死ねという世界で、寝起きし、飯を食い、息をしている。我慢比べをしているだけではないのか。誰もが死にたくなくて、なのに死にたい、死んでやる、と虚勢を張っている。そうではないのか。」
そして並木は出撃していきます。ところが並木の乗った魚雷は敵艦にぶつかる前に故障してしまい、海底に沈んでしまうのです。しかし脱出することもできない(もともと脱出できない構造になっている)。酸素不足で息絶えていった彼の、口惜しさ、情けなさ、怒り、恨みはいかばかりであったか… しかしこのあまりにも情けない結末は、無謀であったこの戦争自体を象徴しているのかもしれません。そして海の向こうでは、今でも「爆弾テロ」という名前の同じ悲劇が繰り返されているのですね…。人間はどこまで愚かなのでしょうか。1時間40分。
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