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2005/05/29(日)
「さくら」
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これはなんというジャンルに入れたらいいのでしょう。西加奈子著「さくら」。テーマは家族の愛。平凡で幸せな家族の、崩壊と再生の物語。 実直で仕事ができる父親、美人で陽気な母親、学園のスーパースターで人気者の兄、誰もが振り返る美人の妹、その間に挟まれた平凡で取り柄のない(妹に言わせると「一回見ただけやったら覚えられへん顔」の)「僕」。その次男の目線で話は進められて行きます。 最初のうちは辟易しました。稚拙な文体、凡庸な形容、くどい擬声音、少女漫画風というか子供の作文みたい。ジョン・アービングを彷彿とさせるってこれじゃアービングに失礼だろう!こんなんでどうしてベストセラーに入ったのか?と殆ど怒りを覚えながら読み進んで行ったのですが…やられましたねえ。子供の作文のままで、ぐいぐいと心の中に入り込んでくるのです。 幸せを絵に描いたようだった一家が、兄が事故に遭った辺りから加速度付きで崩壊に突き進んでいく。下半身不随になったことを知った兄が弟妹に向かって「お、俺のん、も、もう、役にた、立たん、ねん。」と泣くシーン。私は、男の人のこんな悲しい独白は聞いたことがありません…。兄の自殺、父の家出、暴飲暴食を繰り返して肥満していく母、引きこもる妹…しかし最後にこの家族は再生するのです。 読後感は非常にすがすがしい。ただ小学館の「セカチュー、今会いに続く名作!」というコピーは勘弁して欲しいですね。1時間50分。
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