ロバの耳
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2005/09/06(火) 小説・「ホック氏の異郷の冒険」加納一郎 角川文庫
 「八十年の風雪を耐えてきた土蔵を整理していると妙なものが見つかった。黄ばんだ美濃半紙に毛筆でしたためられた手稿の束。そこには曾祖父榎元信の手になる驚くべき物語が──。
 一八九一年九月二十六日の深更、一開業医だった榎元信は農商務大臣陸奥宗光から急な呼び出しを受けた。彼は三年前、まだ外交官にすぎなかった宗光を診察したのが縁で知遇をえていたのだ。陸奥邸には元信の他に、英国公使とサミュエル・ホックと名乗る痩身のイギリス人も呼ばれていた。ホックは元信を見るなり「あなたは医師ですね」と炯眼を披露した。
 宗光の用件は、日英間の条約締結を準備する機密文書が盗難にあったので隠密理に探し出してほしいというものだった。文書が諸外国、とりわけロシアや清の手に渡れば国際問題に発展する。そうでなくても国内で政変がおきるかもしれないのだ。伊藤博文の深謀の可能性もあった。
 翌日から元信とホックは、盗難事件のおきた旧鹿鳴館で調査を始め、東京の街を駆けめぐった。だが、真犯人とおぼしき男は不可解な暗号を残して殺害されてしまった」
(東西ミステリーベスト100 文藝春秋編より)

 昭和五十八年度日本推理作家協会賞受賞作です。

 高校から大学に入るころ、上記のあらすじを抜粋した「東西ミステリーベスト100」に載っているミステリを片端から読んでいたのですが、日本編94位になっていたこの作品は古本屋で100円で購入したきり、ずっと読まずにいたのでした。

 理由は簡単で、当時自分はどちらかと言えばトリック重視の読者で、話の内容がそれほどひねられたものに感じられなかったこと、もう一つはホック氏というのはシャーロック・ホームズの変名で、原作者以外の書いたホームズ談に感心したことがなかったからです。他作者の書いたホームズ物は、パロディとして思い切り歪曲されているか、いかにもまがい物ホームズであったりして、詐欺にあったような読後感を味あわされるのが常でした。だから買いはしたものの、読んではいなかったのです。

 それからもう十数年。その存在自体をすっかり忘れていたのですが、昨日、すでに何度も読み返した「シャーロック・ホームズの冒険」をパラパラと読み流し、さすがに読み飽きてるなぁ……と思いつつふと本棚を見て、この本が目に止まったのです。そして急に、読んでみようか、という気になったのでした。

 導入の前書き部分のところ、作者が曾祖父の手記を見つけるくだりはなんだか読み辛く気が乗らなかったのですが、手記に入るとこれが意外と面白い。まずホック氏として登場するホームズが、とても本物らしく書かれています。また、彼が変名を使っているのも、日本へやってきたのも、時期がライヘンバッハの滝で死んで以後、東洋巡りをしていた頃に当たるというわけで、説得力があるのです。

 さらには、陸奥宗光を初めとして明治時代の著名人が、直接事件に関わってくるのにも興味がそそられました。この本を手にした頃の私は、これら著名人に関してまるで知識がありませんでした。今でこそ陸奥は好きだし、井上馨とか樺山資紀とか山県有朋とかがどういう人物で何をしたのかがある程度わかりますが、学生時代の私は維新から明治にかけての時代に興味がなかったのです。これらの人物に関する知識があると無いとでは、本作から感じられる明治の雰囲気は天と地の差があるでしょう。

 なんというか今回は、まるで本作を一番楽しめる時期が来るまで自分が発酵するのをじっと待っていたような、そんな気分になりました。とりあえず買っておいて良かったです。

 ちなみに続編が二冊出ています。「ホック氏・紫禁城の対決」、「ホック氏・香港島の挑戦」、ともに双葉社。いまからだと手に入れるのは難しいだろうなぁ。


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