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2005/11/24(木)
本・『ローマ人の物語 危機と克服(上)』塩野七生 新潮文庫
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失政を重ね帝国に混乱をもたらしたネロが自死した翌年(紀元69年)、ローマには三人の皇帝が現れては消えた。ガルバ、オトー、そしてヴィテリウス。初代皇帝アウグストゥスの血統ではない彼らに帝国の命運が託されたが、傲岸、生硬、怠惰という各人の性格に由来する統治力のなさが露呈、いずれも短期間で破滅した。さらにその間、軍団同士が争う内戦状態に突入し、帝政始まって以来の危機的状況に陥る。果たしてローマ人はこれをいかに乗り越えたのか。(カバー裏より)
カリグラやネロはキ○ガイで、スキャンダラスな奇行を行って帝政をしくじったというような通説というか、風説を現代人の多くは信じているように思えますが、実際の彼らの所業は少し違っていました。
確かに彼らの行為は奇抜なものもありました。皇帝のくせにプロの歌手になろうとして、下手な自作の詩を演じるため、各地を興行して回ったというのはその最たるものかもしれません。これを見に行った人々は皇帝の権力で強制的に見に行かされたわけではなく、いわばアイドル歌手の真似事をする皇帝を、面白がって見に行ったのです。
彼らは人気取りのために派手な政策をし、そのために国家の財政を傾けた、軽薄で単純な若者に過ぎませんでした。ネロの母親殺しも、権力欲をむき出しにし、自分をコントロールしようとする母親に対する、家庭内暴力のようなものです。
そもそも、ローマの皇帝というのは、権力に訴えて暴虐が行えるほどに強い立場にいる者ではありませんでした。元老院と大衆と軍団の支持を得られなければ、すぐにその座から転がり落ちてしまう。ですから、カリグラやネロを始皇帝やヒトラーと同列に考えるのはかなり間違った認識です。
ネロだって、軍団の支持を失い、市民にそっぽを向かれ、元老院に第一人者の称号を剥奪されたことによって追いつめられて自死をしたのです。
本巻はそういう経緯を経て、ネロというユリウス家の血を継ぐ最後の皇帝を失ったローマ帝国は、どうなっていったのかという話であります。とりあえず上巻は、ネロの死後一年間に、三人の皇帝が即位し、また殺害された歴史が書かれています。
ネロの相次ぐ失政で相当にヤバくなったローマ帝国は、その三人の凡人皇帝の私利私欲による引っかき回しのせいでさらに危うい状態へと陥ります。そこに登場するヴェスパシアヌス。彼はどう帝国を立て直すのか?
まぁ、上巻はこれから面白くなるための序章、ローマが泥沼の危機的状況へ陥っていく過程ですから、読んでいてあまり面白くなかったというのが正直なところです。でもまぁ、それも「克服」部分が面白くなるために必要な要素でしょう。
それに、これくらいの危機で読む気を失っていたら、五賢帝以後、斜陽していくばかりのくだりなんてとても読めませんや。
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