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2005/11/18(金)
本・「江戸前の男」吉川潮 新潮文庫
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最初の入門にしくじって、出戻りから、春風亭柳朝の落語人脊ははじまった。気っ風うが良くて喧嘩っ早い、そのうえ野暮が大嫌い。おまけに酒と博打には目がなくて、女も好きの道楽三昧。しかし、落語のセンスは抜群で、やがて、立川談志・三遊亭円楽・古今亭志ん朝に並ぶ四天王の一角を担うようになったのだった……。粋を貫きとおした、これぞ江戸っ子芸人の破天荒な生涯を描く。(新潮文庫カバー裏より)
落語聞き友達のSから面白いよ、と聞いてずっと探していた本をようやく手に入れることができました。六年前に出たばかりの文庫だというのに、すでに絶版になっていて新刊では手が入らず、古本屋をまわっても見つからず。Sは図書館で借りて読んだので、手元には持っていなかったのです。
手に入れることができた顛末は数日前の日記に書きましたが、そこまで恋い焦がれた本書を、刊行された六年前……いや、Sから話を聞いた当初ですら、私はまったく読みたいとは思いませんでした。その頃は主人公である春風亭柳朝のことをまったく知らなかったからです。柳朝が小朝の師匠であることも知りませんでしたし、七代目林家正蔵の弟子だとも知りませんでした。
それが急展開したのは、やはりSが図書館から借りた柳朝のCDの音源を聴かせて貰ってから。Sは本書を読んで柳朝の「大工調べ」を聞いてみる気になったらしいのですが、借りた本人は期待はずれだったようです。元々彼は、落語を音だけでは楽しめない派ですから。ところがこれで私は柳朝にはまりました。「大工調べ」自体には確かにそんなに惹かれはしなかったのですが、一緒に収録されていた「天災」にはまったのです。なんて面白くて粋でカッコイイ喋り方をする噺家だろうと。けれんなく淡泊にトントントンと噺を運んでいくそのスタイル。そのくせくすぐり部分の面白さと言ったら。志ん生のように笑わせにかかっているわけでもないのに凄くおかしい。
それから私はCD屋で売っている柳朝のCDを買いまくりました。と、言っても残念なことに、売られている柳朝のCDはそんなに多くはありません。どうやら忘れかけられている噺家らしいのです。
いったい、どんな人だったんだろう。ファンになればその人となりにも興味が及びます。そこで改めて、「江戸前の男」が無性に読みたくなったというわけです。
おかげで手に入れるのに苦労しましたが、その手順を踏んで良かったと思います。柳朝の落語を聞き込んだおかげで本書のセリフは読む端から喋り口が再現できますし、紹介されているエピソード当人とすんなりリンクしてくる。生前の故人をまるで知らないくせに、「柳朝ならやりそう」という感覚が、よりリアルに伝わってくるのです。
どうしてこんなに面白い本が新刊で手に入らない状態になってしまったのか。落語家の裏事情(特に談志について)書かれているので、出版社側に圧力でもかかったんでしょうか。そしてあんなに面白い柳朝の落語がどうしていまいちマイナーになってしまったのか。音源はたくさんあるはずです。もっとCD化して欲しいです。
それにしても、昭和の行動経済成長期に活躍した人気芸人さんはみな命が短いですね。三平、馬生、志ん朝、柳朝……戦後の貧しさからの反動で美食や酒、そしてマスコミなどの発達で過剰な労働が彼らの命を削ったのでしょうか。
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