ロバの耳
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2004/09/12(日) 銭形平次捕物控(四)『城の絵図面』 野村胡堂
 ゆっくりゆっくり読んでいたのですが、まぁ、それでもいつかは読み終わってしまうものですね。当たり前ですが。幸い、というか、今回は入手が遅かったので、あと10日ほどすれば次の巻が出ます。

 気になった話をいくつかピックアップ。まずは『人魚の死』。これがまた乱歩的エロチックな話で、事件の現場は見せ物小屋。すり鉢上にしつらえた舞台の底に水槽があって、そこに緋縮緬の腰巻き一つの美女が二人、飛びこんで宝珠を奪い合うという趣向。その片方が水槽の中で腹を割かれて殺されてしまうという話です。両者短刀を持って飛びこむので、犯人は片割れかと思われたのですが……。美女に懸想し、犬のように使える醜男なども出てきて、なんとも怪しい雰囲気の作品でした。
 ミステリとして良くできている、と思ったのは『黒い巾着』。個人的には表題になっている『城の絵図面』より良いと思いました。強欲な大店の隠居が死にますが、お寺から弔いを断られます。これは検死が必要な変死人とお寺が判断したためで、その通り、首には縄で絞められたような跡があります。しかもその隠居がせこせこ貯めていたはずの五千両までが消えている始末。さっそく平次たちが乗り出すと、なんとそこで隠居の可愛がっていた孫が殺されているという事態に出くわしました。孫は発見時まだ息があり、誰がこんなことをしたかと聞くのに「お化け、お化け」と言うばかり。ただ他にも「おじいちゃんの巾着」と言ったり、「六十三は今日だね」などと謎の言葉を残します。はたして犯人は? そして消えた五千両の行方は?
 銭形平次で美女が出てくると、十中八九は殺されてしまいます。なんとも惜しい限り。そんな中でも『十七の娘』は、十七の娘、それも美女ばかりが次々と殺されていくという連続殺人事件です。犯人設定は、なんとかならないかと昔自分でもひねったことのあるものでしたが、もうかなり昔に、しかもこういう風に巧妙に書かれてしまっていたのですね。

 銭形平次の物語は、中には昭和六年に書かれた作品なども入っているのですが、(この短編集、1話1話の発表年次が紹介されていないのがとても残念です)初めから舞台が江戸という設定のせいか、まったく話が古びてません。これには本当に感心します。逆にもう半世紀以上も前に発表されたものというのが信じられないくらいです。胡堂はあとがきで、捕物小説が推理小説より一段低く見られる世の風潮に対する憤りを書いていますが、文章、文体、話し言葉などにおいて、どうしても現代とはギャップの出てくるその時々の推理小説よりも、銭形平次はあきらかに齟齬なく読みやすい、後々の人でも無理なく読める作品にしあがっています。これはある意味、私個人の理想形でもありますね。(私に捕物帳は書けませんが)
 作者は推理小説という言葉を嫌い、道具立ての多い作品を嫌っています。面白くなければ小説たる意味はないとも言い、ヴァン・ダインよりコナン・ドイル、エラリー・クィーンよりアガサ・クリスティとも言っています。これは面白さの普遍性を語っているのだと思うのです。一時はもてはやされても、どちらが長く、時代を超えて読み継がれていく作品でありえるか。その時代にとってクィーンやダインの必要性はあったにせよ、そういう作品は次第にミステリ史上のある位置づけ、教養・知識として語られるに過ぎなくなっていくのではないでしょうか。いつの時代も読者の「楽しみ」のために読まれていく小説って、素晴らしいと思います。


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