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2004/12/28(火)
本・『黒祠の島』小野不由美/詳伝社文庫
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作家葛木志保が失踪した。パートナーの式部剛は、過去を切り捨てたような彼女の履歴を辿り、「夜叉島」に行き着いた。その島は明治以来の国家神道から外れた「黒祠の島」だった……。嵐の夜、神社の樹に逆さ磔にされた全裸女性の死体。さらに、島民の白い眼と非協力の下、因習に満ちた孤島連続殺人が! その真相とは? 実力派が満を持して放つ初の本格推理。 (カバー裏より抜粋)
ずいぶん前に関先生に勧められたような記憶があります。孤島と因習と殺人いう手あかにまみれた題材を使っていながらしっかりしたものを書いていると褒めておられた気がしますが、別の作品と記憶違いをしているかもしれません。
日本人の書いた最近のミステリを読むのは非常に久しぶりのことです。昨日、書店に行ったおり、店頭に並んでいたのを手にとって数ページ読んでみたところ、孤島殺人というケレンを扱っていながら、かなりトーンを押さえた文体だったので、これなら読めるかもしれないと思って買ったのです。無事、読み切ることができました。
読んでいて気になった点をいくつか。 主人公の職業を探偵とも興信所ともつかぬ、ライターの取材代行というものにしたのは臭みがなくて良かったのですが、単なる一般人で捜査権もない主人公に、どうして島民がああもべらべらと内情を喋りまくるのか。(しかも設定では島民は外部の者に非協力的なハズなのに) 彼の取材術は取り立ててうまいというわけでもなく、芸能リポーターのようにしつこくあつかましいわけでもない。特異なキャラクター、例えば金田一耕助のようなひょうひょうとした魅力をふりまいているわけでもありません。 それなのに式部の調査に周りがある程度協力的な姿勢をとってしまう。それはなぜか。その点に私は違和感を感じ、今ひとつ説得力にかけているような気がしました。ここでいう説得力とはリアリティのことではなく、それを読者に自然に受け入れてもらえるような作者側の努力のことです。 しかも、現在の事件についての情報収集や、それに関連しそうな過去の事情のほっくり返しやら、それがメインで話が進んでいくんですね。その度にその違和感を意識させられてしまう。これは私が気にしすぎなのかもしれませんが。
それから(ここから先は内容に触れ、ネタバレの恐れがあるので、未読で結末を悟りたくない方は読まないほうが良いです)島で発見された全裸死体。これを主人公があまりにも簡単に自分が探している葛木志保だと認め、信じてしまうのは疑問に感じられました。 普通ならむしろ逆ではないでしょうか。相手は無事を案じ、特に見返りもないのに探している人物なのです。どんな証拠を突きつけられようとも、この死体は自分の探している人物ではないと思いこみたがるのが普通の人間の心理ではないでしょうか。しかもその死体は一見して誰なのか判別がつかないのです。それに、同時に同じ年頃の娘も失踪している。この状況では最初から最期まで、殺されたのは自分の探しているほうではなく、もう一方の娘だと思っていたいというのが普通だと思うのですが。 ところが主人公がその可能性に気が付くのは話の最終盤。主人公自身、どうしてそう信じてしまったのだろうと疑問を口にしていますが、これはストーリーの展開上そうしなければならなかった作者のいいわけがましさを感じてしまいます。 これもまた、もう一方の展開のメインである、主人公と協力者の推理の組み立て、思考の整理、アリバイの検証等がくり返されるたびに「そもそもの前提が変じゃないのか」と思わされてしまうのでした。
あと、これは好みの問題ですし、少し細かいのですが、途中に出てくる主人公の調査を本土で協力してくれる若者の台詞の「〜っす」という語尾。これは漫画家の細野不二彦も若者を描写する時によく使う台詞回しですが、実際に若者がそういう言葉を使う使わないという問題以前に臭みを感じてしまいます。
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